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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■クリスマスボウルはどんな味?(アイシ)
「おいこら、糞デブ。ボランティアだかバイトだか知らねえが、そんなのは今年限りだからな!」
「分かってるよー」
振り返りながらそう答えた栗田は、いかにもサンタクロース、といった具合の慈悲深い笑みを浮かべた。
「来年は絶対、クリスマスボウル! だもんね。ヒル魔、お互い頑張ろ!」
メリークリスマス、ともう一言残し、高校生サンタクロースは巨体を揺すりながら、白く染まった街中へと姿を消した。
『絶対クリスマスボウル!』
それはいつか、3人で誇らしく誓った約束。
今は、2人だけでささやかに誓う約束。
では、来年は・・・?
さっき口に放り込んだキャンディーを今度は舌先で転がしつつ、ヒル魔はふとそんな思いにかられずにはいられない。
慣れたはずのミントが、ほんの少し、キツい後味を残したように感じたのだった。
************
「・・・ってことがあったのよ。1年前のことだけど」
「へえ〜〜〜」
翌年の12月25日。激闘に激闘を重ねたクリスマスボウルを無事、戦い終え。
大勝利の余韻に浸りつつも帰り支度をしていた泥門デビルバッツの面々は、マネージャーの姉崎まもりから去年の思い出話を聞いていた。
「折角のクリスマスなのに、プレゼントにもサンタクロースにも縁がなかったな〜」
と誰かが言い出し。
それに記憶を触発されたまもりが、ちょうど携帯電話のメモリーに残っていた栗田のサンタ姿を披露したことから、一連の流れとなったわけである。
当時まもりも、吹雪で学校に閉じ込められていた口であり、突然現れた巨体のサンタクロースについ、携帯電話のカメラを向けたのだと言う。
白いひげをつけ、大きな袋をしょった栗田のサンタクロース姿は、待ち疲れた彼女の心にどれほど、優しいものを残したものか。
当時を懐かしむ顔で、まもりは栗田に笑いかける。
「でもどうせなら、クリスマスツリーをバックに撮影したかったなー。絵になるのに」
「確かに栗田さん、スゲー似合ってるっすよね。現物見てみたかったよーな」
「今年は頼まれなかったんですか? 栗田さん。教会のボランティア」
「去年終わった直後に頼まれてたんだけどねー。クリスマスボウルがあるから無理、ってその場で断ったんだ」
「その場で、ですか? 随分と気の早い・・・」
ついそう返したセナだったが、失言だと気づく。傍らでヒル魔が、マシンガンをこれ見よがしに構えたからだ。
「誰が気が早いって?」
「い、いえ、その・・・」
「実際俺たちはクリスマスボウルへ来たんだ、断って正解だろうが」
「ハイ、ソノトオリデアリマス・・・」
「ヒル魔、折角のめでたい場で、そんな物騒なもの出すんじゃねえよ」
「ムサシい・・・何か突っ込みどころが違わない? それにヒル魔、ホントにやめときなって」
親友2人に諭され、舌打ち1つで凶器をしまうヒル魔に肩をなでおろしながら、セナは改めてデビルバッツ創立メンバー3人を見やる。
───そうだ。そもそもヒル魔があらかじめ、釘を刺していたのだった。栗田に『今年は断れ』と。
来(きた)るクリスマスボウルを目指すために。
武蔵厳こと、ムサシのこともそうだ。
可能性はほぼ0だったのに、ヒル魔と栗田はムサシが戻ってくると信じ、彼愛用のキックティーを部室のロッカーへしまいこみ、守ってきた。
そしてムサシも、彼らの期待に十二分に応え、最後の最後で帝黒を打ち負かす豪快なキックを決めて・・・。
本当に彼らは、ずっとずっとクリスマスボウルを目標に頑張ってきたんだな、と、改めて思い知らされたセナであった。
それはいつか、3人で誇らしく誓った約束。
去年は、2人だけでささやかに誓った約束。
───そして今年はここにいる、泥門デビルバッツのメンバー皆で、叶えた約束。
「そーいえば僕、キャンディー袋ごと入れて来てたんだった。みんなー、食べるー?」
「うぃっす! 食うっす!」
「フゴー!」
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12月25日(金)
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