ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■一昼夜【いちにち】(1) ネウロ・筑紫視点
筑紫は自分の運転する車に笛吹を乗せ、ハーヴェイ・オズワルド空母が停泊する東京湾へと急いでいた。
その途上、笛吹は携帯電話で防衛庁と連絡を取り、自分たちが空母までスムーズに通行できるよう、手はずを整えてくれる。ただ単に迎えに行ったところで、厳戒態勢中の港へ入れるはずもないからだ。
だが笛吹はその一方、警視庁の上層部への連絡は事後承諾で良い、と突っぱねた。
「あの老いぼれどもに報告したら、早く進むものも進まん。やれ責任問題だの、順序がどうのだの、ひょっとしたら罠だの慎重にせねばだのと、滞るに決まっている」
「そうですね・・・」
あの時聞いた弥子の声は、確かに怯えこそなかったものの、どこか力がなかった。かなりの極限状態でいる以上、蓄積する必要のない疲労がたまっているのは当然のこと。なのに、警察側の都合で徒(いたずら)に待たせるのも酷と言うものだろう。
だから筑紫も、笛吹に付き合うことにしたのだ。他の人間を関わらせるつもりは、毛頭ない。わが身可愛さに上層部に媚を打つ人間を頼んでも、足を引っ張られた挙句に空母までたどり着けなくなるのがオチではないか。
───第一、桂木弥子たちと何度か顔を合わせ、お互い何となく知っている自分たちの方が、彼女も心強いと思うし・・・。
ちなみに筑紫も笛吹も、罠の可能性はほぼゼロと考えている。いくらエリートと言えど、現在の笛吹は単なる一警官に過ぎない。そんな人間を誘い出したところで、いまや無敵と言っていい電人HALに何か利があるとも思えない。
そうこうするうちに、筑紫たちの車は無事東京湾へと到着した。警備中の自衛隊の連中に身分を明かし、そのまま通してもらう。
空母が真正面に見える場所で、筑紫は車を止めた。程なくして笛吹が、素早く静かに車から降りる。
その場にいる皆が固唾を呑んで見守る中、笛吹は携帯電話を取り出し、さきほど警視庁へかかってきた電話へとコールした。
コールが1回・・・2回、で、向こうが受話器を取る。
『・・・笛吹さんですか?』
夜遅く静かな東京湾では、携帯電話の小さな声でも良く響く。確かに、桂木弥子の声だ。
「ああ、そうだ。私と筑紫とで迎えに来てやった。助手共々、さっさと投降して来い」
『ええ!? 笛吹さんじきじきに? 忙しいのに、別の人に任せても・・・』
「では聞くが、貴様が知らない人間に迎えにやっても、貴様はそいつを信用してすぐさま投降できるのか? あいにくお前の他の顔なじみ連中は皆、動けんしな」
『そ、それは確かにそうなんですけど・・・って、ちょっとお!』
そこでいきなり弥子の声が途切れるものだから、筑紫たちも自衛隊員たちも思わず緊張したものの。次に聞こえてきたのは筑紫も聞き覚えのある、あの妙に物腰の綺麗な助手・脳噛ネウロの声だった。
『ではこれから、僕と先生とでそちらに向かいます。くれぐれも撃たないでくださいね?』
『コワイコト言わないでよ、ネウロ!!』
誰が撃つか! と笛吹がツッコむ前に、電話はあちら側から切られた。
そうして───いつの間にか静まり返った空気の中、向こうから静かに聞こえて来たのは、2人分の靴の音。
それなりの体重があり、歩幅が大きい人間のものと。明らかに軽重量で、軽やかな感じさえする子供のもの。その2人分の足音がゆっくりと、こちらへ近づいてくる。
コツ・・・・・コツ・・・・・コツ・・・・・。
周囲に控えているのは、防御服やら盾やらで重装備の自衛隊員たち。かく言う筑紫たちも念のため、防弾チョッキを身に着けている。
だのに今、空母ハーヴェイ・オズワルドから現れた2人は、明らかに場違いな、無防備な姿だった。
この真夏にきっちり黒手袋をはめ、スーツを着込んでいる青年の方はともかく、少女の方は、ごくごく普通の薄手の夏服に、いかにも華奢な体躯を包んでいて。
少なくともたった2人きりで、テロリストに支配された空母に乗り込んだとは思えないぐらい、あまりに涼やかで頼り無げな姿だった。
彼ら2人がこちらへ歩み寄って来る間、筑紫は身じろぎもせずとにかく、彼らの様子を観察する。
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01月25日(金)
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