ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■世界で最も端的なる主張(モン●ーターン)
「うへえええ・・・それは確かに、榎木さんにしか言えないですよ・・・」
「お前なあ、もちっとオブラートに包んだような表現、出来んのかいな」
「おやおや。素直な思いの丈を託せ、って蒲生さんがおっしゃったんじゃないですか」


 どことなく青ざめた波多野と。
 うんざり顔の蒲生。
 そして、そんな2人を実に微笑ましく見つめる榎木の仕草を見るに至り、辺りは「もう勝手にしてくれ」と言わんばかりの投げやりな雰囲気に包まれるのである。・・・実際、榎木の他にグランドスラムを実現できそうな人物はあいにく、今回のレースには出場していなかったので。

 周囲の諦めムードも何のその。3人の勝手な会話は続いている。


「けどなあ榎木。今は仮にもG1を闘っとる最中やっちゅうに、SGの話されても何かシラけると思わんか?」
「・・・まあ、確かに。さっさと戦線離脱してしまっているなら、話は別なんでしょうけど。我ながら、ちょっと傲慢だったかな」
「2人ともホント余裕ですよね・・・とっくに準優確定なんだから、無理もないけど」
「そう言や波多野は、明日勝負賭けやったな。こうなったら思い切ってぶっちぎりのTOP、獲ったれや」
「無茶言わないでください。明日のレース、蒲生さん以上に絶好調の犬飼さんが一緒なんですよ」
「ははは、さすがに怖いもの知らずの波多野でも、ホームプール相手じゃ手も足も出ないらしいね」


 ───ちなみに今回、このG1で優勝の最有力候補として挙げられているのは、実は榎木でも蒲生でも波多野でもなかったりする。

 そんな中。
 ある一選手が、自分にしか聞こえない声で『年末を 獲るのが先決 今はまだ』と呟きつつ(←結構律儀☆)、さっさと食堂を出て行こうとした。
 が。


「おーしっ! 榎木がそないなら、ワシも素直なココロとやらをぶちまけようやないかー。遠慮なんぞするほうがアホらしいわ」


 まるでその選手の心中を読んだかのように、とんでもない川柳を詠んだのである。


「『息子との レースは父への 前哨戦』。どやっ!」


 をいをいをいっ!!
 こらこらこらっっ!!!


 周囲があきれたような、焦ったようなツッコミを同時にする中。
 勝手に川柳の題材にされてしまった件の選手───洞口雄大は、明らかに一旦足を止めた。

 ───どうでもいいことながら、今回のG1での優勝最有力候補は、彼でもない。


「・・・聞き捨てならないですね・・・蒲生さんはもう、僕は眼中にないとおっしゃるんですか?」


 それから彼は、ゆっくりと振り向きながら静かに尋ね返して来たものの。
 そこに至るまでに怒りやら、悔しさやらを懸命に押し殺していたんじゃないか───同期で良きライバルでもある波多野は、そう感じずにはいられない。


「は? 何でそうなるんじゃ?」


 が、爆弾を投下した当の本人は、何故か呆気にとられたような顔で洞口Jr.を見つめ返し、皆を困惑させる。


「別に眼中にないなんて言っとらんぞ、ワシは。第一お前、おもろいレース運びするけんの、結構楽しみなんじゃ、一緒のレースに組まれるんは」
「・・・どうも」
「ただなー、若い時の親父さんもきっと、よお似たレースしたんやろうなー、思うてのー。要は擬似練習みたいなもんじゃ、洞口武雄とのレースに向けての。ま、ワシの勝手な思い込みかも知れんけど。
何せワシ、SGとかG1じゃ未だ、洞口武雄と戦っとらんさかい。いっぺんは大きな舞台でやってみたいんやが、『愛知の巨人』と」


 意外な告白に、洞口Jr.と波多野がほぼ同時に言葉を発する。


「え・・・そうなんですか?」
「ホントですか? まだ1度も? 俺なんか2度ほどありますけど?」
「ホンマやって。何せ以前のたった1度のチャンス、みすみすフライングでフイにしてもうたさかい。『フライング 一日千秋 水の泡』ってか?」
「「あ・・・・・」」



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01月19日(金)
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