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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!!(15)前編
 そもそもあたしが、こんな痛い思いをしてまでお芝居を打ったのも、全ては世間の目を彦一・お夏父子から逸らすためだったんだけど。
 巻き込まれた格好の二人としては、だからってそれで全てを忘れて元通り、と言う気持ちにはなれなかったみたいなの。《龍閃組》の連中がアレコレと慰めていたらしいけど、人の心ってそう簡単に癒されるものでもないらしいわ。

 それであの父子が採った選択が、全てを引き払い、江戸から生まれ故郷へと帰ること、だったの。とりあえず昔馴染みも何人か残っているはずだし、何とかなるだろう、ってことで。
 出立の日、江戸の外れまで二人を送っていった《龍閃組》の心中たるや、そりゃあ複雑なものだったらしいわ。
 けれど、彼らに深々と頭を下げた元・油売りの彦一は、きっぱり、こう言ったって話よ。


「亡くなっていった方々のためにも、勇坊のためにも、絶対にお夏を不幸にはしやしません」って。

 ・・・今となっては、彼のその言葉を信じるしか、方法はないだろう。


 華のお江戸は、あいかわらずアチコチで物騒な事件が起きている。
 江戸中を震撼させた今回の事件も、解決してしまった今となっては人々にとって、そのうち忘れられるものの1つになってしまうに違いない。
 特に、この事件を担当した火附盗賊改・自体が解体され。
 悲惨な火付けの舞台となった小津屋ですら、こうして新しい建物へと生まれ変わってしまう、と来れば。

 けど、あたしは絶対に忘れやしない。
 儚く亡くなっていった、優しくも哀しい姉弟がいたことを。
 彦一やお夏、《龍閃組》や《鬼道衆》の連中だって、そうだろう。
 だから・・・きっとそれでいいんだと思う。



 あたしが何となくしみじみとした気分になっていると、御厨さんが奇妙なことを言い出す。

「涼浬で思い出しましたが・・・彼女、そのうち時間が空いたら榊さんに折り入って聞きたいことがある、って言っていましたよ」
「は? 何それ」
「さあ・・・よく分からないのですが、骨董屋の爺さんと会ったことがあるのか、としきりに聞いておりました」


 骨董屋の爺さん?

 ・・・ああ、例の《鬼道衆》とあたしが初めて会った時、鍛冶屋の二人の子供をやたら庇ってた、あの爺さんのことかしら?
 そういえば涼浬って、骨董屋もやってるって話だったわよね。ひょっとしてそっち方面の事情とか。
 商売敵? それとも、実はかなり昔に生き別れた肉親、だったりして?

 とは言うものの、このご時世ではお互いいつ時間が空くか、分かったものじゃないけどね。あまり当てにしないでほしいものだわ。



〜茂保衛門様 快刀乱麻!!(15)後編 へ続く〜

07月25日(日)
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