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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■そして始まる日々(5)JOJO 広瀬康一
 露伴先生のスタンド能力を疑うわけじゃないけど、何となく恐る恐ると言う感じで僕は本に目を落とす。
「う・・・うわあ・・・」
 読める。さっきまで分からなかった文字が、ちゃんと理解できるよ。露伴先生の『ヘブンズドア』ってすごい!
「それはイタリア語がかなり分かる人間じゃないと、読みこなせない原書なんだ。どうやら成功したようだね」
「ありがとうございます!!」
 僕は本を露伴先生に返す。

 その本を戸棚に戻してから、露伴先生は僕の方を振り向いたかと思うとにんまり、って感じで笑いかけて来た。
「さて。僕のスタンド能力を利用させてやったんだから、君にも僕に協力する義務が出来ってわけだな」
 ・・・そら来た。
 ケーキを持ってきたぐらいで、露伴先生が納得するわけがないなって分かってはいたけど、ちょっと腰が引けちゃうな。だって、何を頼まれるか、予想が出来ないんだもの。
「別に大したことじゃあないさ。これを読んでもらえないか、って思ってね」
 そう言って差し出されたのは、1束の書類らしきもの。僕は拍子抜けしたような気分になって、何のためらいもなく目を通したんだけど。
 ───その「書類」の正体に気づいた時、僕は正直言ってドキドキ言ってる自分の心臓を静めることに躍起にならずにはいられなくなったんだ。
 何でって・・・。

「露伴先生・・・これ『ピンクダークの少年』の原稿ですよね・・・?」
「ああ」
「だけど僕・・・この話まだ、雑誌で読んだことないんですけど・・・」
「そうだろうね。担当者にもまだ渡してない、2ヶ月先に掲載予定の原稿だから」
「ちょっと待てええっ! そんな大切なもの、ポンポン他人に見せていいんですかあああっ!?」

 ───つまり、僕が見せられたのは門外不出、担当者さえ読んだことがない超・最新作なわけで。
 極端な話、日本中・・・いや世界中どこを探してもこのストーリー展開を知っているのは原作者である露伴先生と僕だけ、ってことになるんだ。
 ・・・とんでもないもの、見せてくれちゃってるよこの人・・・☆

「他人じゃあないだろう。君は僕の親友なわけだし。それに君の性格上、他人にバラすとも思えないしね」
「そ、そりゃあ誰にも話すつもりはないですけどお・・・」
「・・・まあめったにあるわけじゃないが、僕の原稿に誤字脱字があってはならないからね。君にはそのためのチェックをしてもらいたいんだ」
 露伴先生のそのもっともらしい言い草が、だけどその時僕の心にすとん、と落ちた。


 ・・・誤字脱字、だって?
 これ以上ってないほどの完璧主義のはずの、露伴先生が?
 そりゃあ露伴先生だって人間だから、失敗ぐらいあるだろうけど・・・そう簡単に他人に対して、そう言う「弱み」にもなりかねないものを、この人が見せたがるだろうか? まあそれでも僕に対しては、「親友」呼ばわりするだけあって他人に対するよりは、色々な表情を見せてるみたいなんだけどさ・・・。
 そんな先生が、言葉を変えれば「屈辱的」とも思えることを僕に頼んで、何の得があるって言うんだろう? 以前、生原稿を盗み読み「させられた」時は、単に「ヘブンズ・ドア」で僕らのデーターを読みたかったからだったけど。
 まあ僕にとっては、すごく「ラッキー♪」って気はするけどさ・・・。

 ───その時、ふいっと僕の心によぎった1つの考え。
「露伴先生・・・ひょっとして僕の昨日の行動、読んだんですか?」
 無言。
 だけどそれは、肯定と同意語で。
「・・・僕が変に悩んでて、承太郎さん相手に愚痴ったの、知ってたってわけですか・・・」
「別に、読もうとして読んだわけじゃないよ。つい目に入ったって、ただそれだけなんだ。僕が意識して、君のプライバシーを読むはずないだろ? 君がそういう行為が大嫌いだってことは、僕が一番良く知ってるんだから」
 珍しくおたおたと言い訳をする露伴先生に、僕はやっと納得できた。

 誰よりも早く未発表の生原稿を、チェックと偽って僕に見せてくれようとしたその理由。

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11月12日(月)
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