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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■毛利小五郎という人物(2) 名探偵■ナン
大慌てでマスクを外し、それでも変装は解かないまま、私は現状に向き合う。
一方の毛利氏は、気のせいか、居心地の悪そうな顔になっていた。
「一番の理由は・・・あー、ええと、体の匂い、体臭、だな」
「・・・体臭?」
「確かにお前さん、コナンから洋服を借りているせいか、あんまり違和感はねえよ。
ただ、俺は毎朝毎晩、あいつと同じ部屋で寝起きしてるんだぞ? 要するに、あいつの体臭にいい加減慣らされちまってるんだ。そこからあれ? と疑問に思ったってだけさ」
「ああ・・・なるほど」
私だって、阿笠博士と同居している以上、何となくではあるものの彼の体臭を知っている状態だ。と言っても、入浴したらボディソープの香りで紛れてしまう程度で、とても『嗅ぎ分ける』ことなど出来そうにないが。
つまり、『コナン』が一晩で全く違う体臭になっていたから、毛利氏に気づかれてしまったのだろう。彼の服を借りていたからまだ、即行バレが避けられただけで。
本当に迂闊だった。もし再び工藤君に成り代わる必要があった場合、是非考慮すべきだ。
もう2度目はないだろうけどね。
「変態チックな話で、悪いな」
「いいえ。ものすごく納得したわ。単なる勘、なんて言ういつかの誰かよりはよほど」
「????? で? 嬢ちゃんは今晩何が食いたい?」
「え」?」
てっきりその後、こちらの事情を説明するよう求められると思いきや。どうやら彼には、もっと先決させたいものがあるようで。
「色々聞きたいことは山ほどあるが、今は腹の虫を収めてえんだよ・・・」
確かに、さっきから空腹時特有の音が、彼の腹部から聞こえる。随分呑気な日常に、何となく苦笑を禁じ得ない。
「そうね。まずは腹ごしらえね」
結局私は、チャーハンと揚げ物とスープのセット。そして毛利氏はラーメンと半チャーハンをデリバリーで頼み、大人しく事務所のソファーで食すこととなった。
「揚げ物、半分食べてくれる?」
「おお。小学生じゃ胃袋小さくて、あんまりたくさん食えねえか。・・・うん、結構うめえぞ、これ。良いのか? 残り食っちまっても」
「小学生の栄養バランス的には、これくらいがちょうど良いわ」
阿笠博士との夕食なら度々ある『惣菜の分け合い』を、この事務所で行なう事になるとは、数時間前までは思いもよらなかった私。
揚げ物を注文したのは、チャーハンとスープだけでは栄養が偏っていたから。ついでに、毛利氏の栄養補充になれば良い、とも思ったから。
決して、追究を緩めて欲しいためのワイロ、と言う訳ではない。
(そもそもお金を出すのは彼なのだし、ワイロ以前の問題だ)
子供の私が見ている、と言うこともあるのだろう。毛利氏は、工藤君から聞いているよりはるかに行儀良く、ご飯の一粒も残さずに、食事を終えた。ついでに、使い捨ての容器をさっさとゴミ袋にまとめ、室内を見苦しくない程度に片付ける。
お腹は膨れた。となれば、後はこちらの説明を待つばかり。
「・・・どうせ、他人に聞かれたくねえ話なんだろ? 悪いが、事務所の鍵を閉めても良いか?」
ここできちんとこちらの了承を得る辺り、彼は本当に常識人だ。
そう。後日、我が身に盗聴騒ぎが降りかかった際、つくづくそれを懐かしく思ったっけ。
それはともかく、私の頷きを見届けてから、毛利氏は静かに事務所を中から施錠した。
そうして私は依頼者側の席、彼は向かい側に座って、話を再会する。
「ええと・・・何から話せば良いのかしら?」
「まずはお前さんのその格好が、あのガキの強制じゃねえのか、ってことだな」
予想外の質問に、私はしばし目を瞬かせるしかない。
「え? く・・・江戸川君からの強制だ、ってあなたは思ってるの?」
「おうよ」
重々しく首を縦に振る毛利氏の顔は、「あのクソガキ、オンナノコに何てことさせてやがる」との憤慨がありありと伺える。
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06月13日(金)
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