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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■春の香は碧 【鳴門】 前編
 おそらくは毎年、繰り返されているやり取りなのだろう。押し切られる風を装いつつも、どこか面映い表情のガイは、慣れた手つきで店のエプロンを身に着けた。

 そうして、興味津々のカカシの目の前でガイが作ったのが、フキノトウの焼き味噌、だったのだ。

 ミキサーも何も使わず、洗ったフキノトウをまな板の上で荒いみじん切りにし、味噌と食用油と酒を適度に合わせ、そのまま包丁でたたく。
 その間に店主がいそいそと、浅く広い皿にアルミホイルを覆うように敷き、その上に薄く食用油を塗り始めた。
 そうして手渡された土台に、ガイが左官よろしく、包丁をこてに見立てて、フキノトウ入り味噌をざっと載せる。・・・一見無造作だが、何かしらコツみたいなものはあるのだろう、という雰囲気で、均等な厚さに。


「ふんふんふ〜ん♪」


 一方店主は、と言えば、いつの間にかアルミホイルを敷いた平たいフライパンを用意し、皿と同様表面に食用油を塗った上で火をつけ、炙っている。鼻歌交じりに。
 その上にガイが、慎重な手つきで味噌を下にして皿を置くと、味噌とフキノトウの香りがたちまち、店内へと漂い始めた。

 不意に、カカシの口をついて出た言葉がある。


「蓬の車に押しひしがれたりけるが、輪の廻りたるに、
近う うちかかへたるもをかし・・・」

(清少納言 枕草子「五月ばかりなどに」より)


「・・・よもぎ? 何だ、呪文か? それは?」
「呪文って、あのね★」
「聞き覚えがあるわ。確か・・・木ノ葉に良く似て四季がある『和』の国の、むかしむかーしの有名な作家が書いたって随筆、だったかしら?」
「よく知ってるねえ。アカデミーでも習わないのに、これ」


 アカデミーでも教えていないものを覚えているとは、二人とも随分酔狂だな。

 そう言わんばかりのガイをよそに、店主とカカシの会話が弾む。


「知り合いに、老舗和菓子屋がいるから。今の季節によく蓬餅を作るんだけど、よく引き合いにこの言葉を口にするのよ」
「ああ、なるほど」
「・・・で、どういう意味なんだ? カカシ」
「牛車に押し潰された際に漂ってくる、蓬の香りが趣があって好ましい、って意味。
ほら、蓬も独特の香りがするデショ? フキノトウの香り嗅いでたら、思い出しちゃって。
多分フキノトウも、牛車に踏まれたら今みたいな香りするんだろうねえ」


 むろん、その時はこれほど香ばしくはないのだろうが、それはそれで風流があるに違いない。
 が、店主の方は随分と現実的な意見を述べた。


「あら、牛車が通るような道なんだから、フキノトウみたいな凸凹する草なんかは、真っ先に引っこ抜かれそうだけど。あるいは、踏み固められちゃって生えてこないとか」
「あー、そうかも。車輪が引っかかっちゃうか。風情も何もないねー」
「だが、蓬なんぞ一年中見かけるぞ? どうして今の季節に、蓬餅なんだ?」
「・・・蓬が一年中生えてるの、よく知ってたねガイ」
「カカシ、それは俺が情緒を理解せん、と言う意味か? 俺は木ノ葉一、風情を愛する男だぞ! 花粉症だし。それに蓬なら、修行場によく生えてるじゃないか」
「イヤ、花粉症と風情は別問題だし★」
「確か、今の季節の葉の方が、柔らかくていい香りがする・・・んだったかしらあ? ゴメンなさいねえ、忘れちゃったわ。
それよりほらほら、手が止まっちゃってるわよ、ガイちゃん。次、次」


 変に薀蓄披露になる前に、店主がそれとなく話を打ち切った。・・・それなりに空気を読む人物らしい。でなければ、サービス業は務まらないだろうが。
 いくら今は手元が忙しいとは言え、このまま話に加われないとなると、何だかんだで構いたがりで構われたがりのガイが、不愉快になるのは目に見える。

 幸いにも、二人の心遣いを知らぬまま、店主と雑談を交えながらもガイは、同じような焼き物を5つばかりこしらえた。


 どんだけ大量のフキノトウが用意されていたんだ、一体。
 ってか、仮にも客のガイに、どんだけ料理させてるんだろ、図々しくないか?



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04月15日(水)
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