ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
[61323hit]
■クリスマスボウルはどんな味?(アイシ)
どうせならサンタクロースの正体は秘密にしたいため、教会を訪れる子供たちとは面識のない人物に頼みたかった、と言うのが、主催者の目論見なのだろう。・・・確かに坊主の息子なら、そう顔なじみにはならないだろうし。
「で? 何でわざわざ泥門に寄ったんだよ? その扮装見せびらかすためか?」
ヒル魔も、栗田がこれから向かう、という教会の場所は把握している。家で着替えたのも、教会に来る子供たちとやらに正体を隠すためだ、ということも想像が付く。
が、栗田の家から出発するにしたって、ここに立ち寄れば完全な遠回りになるはずなのに。
すると栗田は、背中に担いだ白い大きな袋から(ご丁寧に防水加工付きだ☆)、クリスマスらしくカラフルで小さな巾着袋を取り出し、何やら甘い匂いが漂ってくるそれをヒル魔へと差し出した。
「メリークリスマス、ヒル魔!
はい、これ。プレゼント渡しに来たんだv」
───一瞬、凍りつく空気。
シュールだ。とんでもなくシュールな図だ。
人の良さと笑顔全開のまあるいイメージのサンタクロースが、泥門一の凶暴悪魔と呼ばれている鋭角的青年に、クリスマスプレゼントを手渡す───など栗田以外、誰も想像なんてしたことのない光景だろう。
滑稽さと恐怖の狭間で、声を出すのすらこらえている泥門生徒たち。
これ以上なく自分に不似合いな可愛らしい代物を、こともあろうに公衆の面前で渡され、怒り心頭のヒル魔。
そんな中、空気を読めない栗田だけが、ニコニコと笑みをたたえたままである。
「てめえ・・・俺は甘いモンは食わねえ、って言ってるだろうが!」
↑ツッコミどころが違う☆↑
「怒んないでよー。それにこれ甘くないし」
そう言って開いた巾着袋から出てきたのは、1つずつ小袋に入った白や水色のキャンディーだ。
「ほらこれ、ペパーミント味なんだ。子供ってあんまり、この味欲しがらないでしょ? だから多いんじゃないかって話になって、余ってもったいないから僕が貰ったってワケ」
「クリスマスプレゼントとか言いながら、俺に不要物押し付けるのかよ☆」
「捨てちゃうよりいいじゃない。それに、喉が乾燥すると風邪引きやすくなるって話でしょ? 今日のヒル魔にはピッタリだって思ったからさ」
「・・・・・・」
確かに今朝から、少し喉がいがらっぽくなっていたのは事実である。よもや、栗田にそのことを気取られていたとは。
それとなく照れを隠し、青い色のキャンデーを摘み上げながら、ヒル魔は悪態をつかずにはいられない。
「・・・ガキたちをそこまで甘やかすなんざ、教育上宜しくねえんじゃねえのか? たまには辛いものがある、って感じにしておいた方が、結果的に奴らのためだと思うぜ」
「うん。教会の人たちもそう言ってた。だから、1袋に1つの割合で、ちゃんとペパーミント味も入ってるんだってさ」
「けっ」
先を読まれた悔しさで、ヒル魔は小袋を乱暴に裂き、水色のキャンデーを口に放り込んだ。たちまち舌先を刺激するのは、慣れ親しんだミントの香りと味。
ガリリ、と奥歯でそれを噛み砕いては、次の小袋に手を伸ばす彼を、栗田以外の生徒たちは物珍しそうに眺めている。
「ヒル魔ぁ。その食べ方じゃあ、喉にはあんまり効果ないと思うけど」
「るせえ。自分の食いもんをどんな食い方しようが、俺の勝手だ」
「それはそうだけどさ・・・じゃ、そろそろ時間だから、僕行くね」
栗田がそう告げたところ、「ええーーっ!」と一斉に周囲から上がる、残念そうな声。
見れば、ヒル魔の背後にはいつの間にか生徒たちが、携帯電話を片手に列を成していた。どうやら『サンタクロースとの』写真撮影を狙っていたらしい。
とは言え、ヒル魔にプレゼントを渡す、と言う目的は果たしたのだから、確かに栗田がこれ以上ここに居座るのもおかしい。ヒル魔に睨まれたこともあり、それ以上、俄かサンタクロースを引き止める動きは起こらなかった。
よいこらしょ、と大きな袋を担ぎなおし、踵を返す相棒の背中に、ヒル魔は話しかける。口の中の欠片を、全部噛み砕いてから。
[5]続きを読む
12月25日(金)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る