ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■一昼夜【いちにち】(1) ネウロ・筑紫視点
 恐怖のあまり自宅に篭城した者は、まだおとなしくていい。だが、国外へ逃亡すべくと封鎖中の空港に詰め掛けた者、ヤケを起こして略奪や暴動を起こす者、それらに追随して起こる事件事故を処理すべく、警視庁及び警察庁は全人員を持って奔走する羽目に陥った。
 それは当然、筑紫や彼の上司である笛吹も同様で。直接現地へ出向くことこそないものの、警視庁にて人事配置や情報収集にかかりっきりになっていた矢先だったのだ。

 こちらからかけるのが主だった電話の、呼び出し音が鳴り響いたのは。


「どちらからの電話ですか?」

 たまたま電話の近くにいた筑紫が、何の気なしに受話器をとって応対する。

『探偵の桂木弥子、と名乗る少女からです』
「・・・・・桂木探偵が?」

 意外な相手に、筑紫は思わず鸚鵡返しになる。
 他の部下に指示を出し、送り出したところだった笛吹もそれを聞きとがめたのだろう、苦々しい表情を隠そうともしない。とは言え、門前払いもどうかと思ったのか、軽く頷いて同意の意思を示す。
 それを受けて「分かりました。繋いでください」と言った筑紫だったが、返って来たのは内線からの重苦しい沈黙。

「・・・? 何か問題でも?」
『そ、それが・・・この電話をかけてきたのが、あの空母ハーヴェイ・オズワルドかららしくて・・・』
「何だって!? オズワルド空母から!?」

 今まさに騒動の渦中にあるあの空母から、何故桂木探偵が電話なぞ?

 さすがの筑紫も、あまりに想定外の事態に混乱せずにはいられない。つい棒立ちになったまま握り締めていた受話器を「貸せっ!」と笛吹に奪い取られてから、やっと正気を取り戻す体たらくだ。
 そんな部下の様子を一瞥する一方、笛吹は電話のスピーカーホン機能を作動させ、筑紫にも会話を聞けるようにする。本来なら、いわば素人である探偵と馴れ合うようなことはしない彼だ。当然、電話でのやり取りを他人に聞かせるなど、論外のはず。が、今は彼と筑紫以外の人間が全て出払っていることもあり、構わないと踏んだのだろう。・・・それだけの信頼関係を、筑紫は笛吹との間にはぐくんで来ている。

 筑紫が電話の会話を聞く体制になったのを確認の上、笛吹は受話器の向こう側に話しかけた。

「私だ、笛吹だ、桂木弥子。貴様どうして、オズワルド空母になんぞ潜り込んでいる?」
『ええっと・・・話せばちょっと長くなるんですけど・・・って、あれ? どうして笛吹さん、私が空母の中にいるって分かるんです?』

 聞き覚えのある桂木弥子の声には、怯えや恐怖と言うものはあまり感じられない。傍で耳を済ませていた筑紫は、ほっと胸をなでおろす。
 聞こえてくる彼女や上司の声の反響具合から察するに、どうやら電話はだだっ広く静かな場所から繋がれているらしい。

「一応貴様も、警察に悪戯電話をかけたことなどない、善良な市民らしいな・・・。警察で受ける電話には普通、逆探知装置がついている。発信元がどこか調べることなど、ワケもない」
『あー、そういえば刑事ドラマとかで見たことあるような・・・って、それどころじゃなかったんだった。
あのですね』

 どうやらここからが本筋と、筑紫は視力に神経を集中する。が、さすがに彼も、弥子がこう続けるとは思いも寄らなかった。

『その・・・ここの空母の電人HALは何とか、私とネウロで止めるのに成功しました』
「・・・・・・・・・・・は?」

 それはどうやら、彼の敬愛する上司も同様らしい。

「止めた・・・?」
『で、何人か怪我人出てるから救急車の用意・・・・・って、痛い痛いネウロ、分かったから引っ張らないで!』
「ちょ、ちょっと待て。貴様今、止めたと言ったのか? 電人HALを?」
『はい。もうここの空母には危険はないはずです』
「・・・・・・・・・・・・」
『そ・・・それで、私たち折角こっちに来たはいいけど、帰りの足がなくって・・・。済みませんけど、誰か私たちを車で迎えに来てもらえませんでしょうか?』

 ************

 ───数分後。

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01月25日(金)
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