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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■世界で最も端的なる主張(モン●ーターン)
「わはははははっ! そ、それ言うて、お前が前言うとった姉ちゃんたちのことやろ。SG優勝賞金でリフォーム目論んだ、ちゅう話やったか? あはは、相変わらずなんやなあ」
「そうなんですよー。俺はもう実家出たって言うのに、母さんたち未だに話題に持ち出すんだもんだから、澄も顔引きつらせちゃって・・・」
実は波多野は、長く交際していた恋人と結婚し、実家からマンションへと引っ越したのである。さぞや新婚さん・2人きりの甘い生活を満喫できると思いきや、現実は結構世知辛いものらしい。
何故かここで蒲生は独身のくせに、既婚者であるはずの波多野に偉そうな解釈をたれた。
「まあ、そもそも所帯持つには金かかる、っちゅう話やけんの。数年前岡泉が結婚した時、婚約指輪にかなりの金、つぎ込んだらしいぞ?」
「うひーーっ☆ ひょっとして給料3か月分ならぬ、一般優勝3回分、とか? あ、でも岡泉さんとこ、もうお子さんいらっしゃるんですよね? 確か。もうさすがにそこまで贅沢は出来ないか」
「『4000万 妻がいつしか 学資保険』てか? はは、そっちもある意味、太っ腹や思うがの」
やっぱりワシはまだまだ身を固める気にはなれん。と、蒲生が出来もしないことをつぶやいたところで。
「・・・余裕ですね、蒲生さん。さすが今日1番のタイムで勝った人は違うな」
苦笑を浮かべ2人に話しかけてきたのは、やはりと言うか、艇王・榎木であった。
「ワシが今日1番のタイム? ほお、お前も結構早かったと思うたがの?」
「残念ながら、後一歩及びませんでして。でも、明日一緒のレースでは、勝たせていただきますから」
穏やかな口調ながら、きっちり闘志を燃やす榎木に、波多野が思わずつぶやいた一言。
「『健闘を 称えながらも 宣戦布告』・・・」
「・・・・・・え?」
「おー波多野、これでもう2つめやないか。やるのー。ただ競艇選手やなくて、スポーツ選手やったら誰でも通じるんが、今一つっちゅうとこやか」
「あの、一体何の話ですか、2人して」
戸惑う様子の後輩に笑いかけながらも。
蒲生は先ほどから頭の体操と称して、波多野と川柳をひねっていることを話した。
が、それに対する榎木の対応と来たら。
「ふむ・・・熱はまだないようですね・・・」
「・・・榎木、あのな」
「だって、蒲生さんはどちらかと言うと、ヒラメキで動く人じゃないですか。天才肌と言うか。なのに珍しいことなさってるから、知恵熱でも出てないかと思いまして」
「お前、人に『慇懃無礼』っちゅうて、言われたことないか?」
「ははは、蒲生さんが初めてですね、きっと」
───うわ〜・・・榎木さんてば先輩の蒲生さんに対して、結構すごい言い草なんじゃ・・・☆
波多野も2人の大先輩の妙なやり取りに、傍でハラハラせずにはいられない。
それでも蒲生が大して怒らないのは、研修生時代からの長い付き合いでお互い気心の知れた間柄なのと、下手をすれば本気で知恵熱を心配しかねない、榎木の生真面目な性格が要因だろう。
目の前の一種異様な雰囲気に思わずヒキそうになるところを、何とか踏みとどまる波多野。本人同士はともかく(←ここ重要☆)、見守る周囲が妙な緊張で固まってしまったのを何とかすべきだと感じたので。
とは言え、さほど手段が思い浮かばない現状では波多野も、わざとらしい話題転換ぐらいしか出来なかったが。
「あ、あの榎木さんっ、榎木さんは何か面白い川柳、考え付きません?」
「川柳ねえ・・・俳句と違って、季語はいらないんだったかな?」
「いらんいらん。素直な思いの丈を、575の言葉に託せばええんやから」
「素直な思いの丈、ですか。確かにそれは、蒲生さんの得意技かも知れませんねえ」
さりげに失礼な前置きをし、ほんの数秒考え込んでから、榎木はおもむろに告げた。
「・・・『言わずとも グランドスラムを わが腕で』ってのは、どうです?」
───一瞬、先ほど以上に空気が凍った直後。
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01月19日(金)
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