ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!!(15)前編
さすがに父上は元・盗賊改与力だからそんなことはなくて、ただちにお医師を呼ぼうとしたわ。ただ、一緒に着いて来た美里藍や涼浬とか言う女たちが、自分たちの方が事情を把握しているからこのまま治療を続行する、って主張したんだけど。
父上はともかく、その後何とか意識を取り戻した母上が、それに噛み付いたらしいのよねえ。曰く「町医者の風情が武士の手当てをしようなぞ、身をわきまえろ」って。
そのうち母上の焦りは、そのまま部下の御厨さんへと向けられて。
「お前たちがついていながら、茂保衛門にこのような火傷を負わせるとは何事ですか!」
って怒鳴りつけたらしい。あたしが覚えてる限りじゃ見たこともない、狼狽顔で。
御厨さんは御厨さんで、母上の言うことは至極ご尤も、ってただひたすら平伏するばかりだったんだけど。
自分の無能さを侘びて切腹しろ、とまで御厨さんに言い出したもんだから。
「部外者が勝手に口を挟むじゃねえっ! 火附盗賊改には火附盗賊改の事情があるのに、事情も知らねえヤツにとやかく言われる筋合いがどこにあるってんだっ!!」
って、あ・た・し・が、起き上がりざま母親を叱り飛ばした───って言うのが、その時やっぱりそう叱り飛ばそうとした父親から、聞いた話なのよね。
でもこのあたしが、よ? 自分でも信じられないわ。あの日気絶してからのことって全然覚えてないし、言うだけ言ったらまた気絶したみたいだから、何か情けないような気がするんだけどね。
とにかく、あたしのその言葉に父上も後押しされるところもあったようで。
未だ身分違いがどうのとゴネる母親を一顧だにせず、美里藍たちをそのまま主治医として屋敷に上げて手当てを続けさせた、って聞いてるわ。
まあそれには御厨さんが、美里藍がよく自分たちも世話になっている町医者で、腕前も信頼がおける、って口裏合わせてくれたお陰もあったらしいけどさ。
(与助が後で教えてくれたの。あのクソ真面目な親分が、あんな嘘を口にするなんて思わなかった、ってね)
もしあのまま、事情を把握していない別のお医師に委ねていたら、おそらくあたしはこうして生きてなんていなかっただろう───それが、父上を筆頭としたあの場に居合わせた人間の意見だ。
もちろん御厨さんも、あたしが屋敷内で臥せっている間、ただぼんやりとしていたわけじゃない。
「小津屋で焼死した正体不明の怨霊が、当日小津屋を訪問しておきながら偶然助かった2人を妬んだ挙句、次々に襲った」
「挙句、世間全部を怨んで長屋を火の海にすべく出没したが、火附盗賊改が何とか撃退した」
って言う『事実』を世間に公表し、事後処理もその通りに進めたの。
ただ。
予想通りと言うか、まるでどこぞのよく出来たお芝居のごとく事件が解決したってンで、不審に思った人間がいなかったわけじゃない。町人よりそれはむしろ、町奉行をはじめとする武士側で。
でもそれはさすがに、与力であるあたしが怨霊に襲われて大火傷を負った、って事実がものを言ったわ。
以前与助が言ってたけど、どうやら世間一般からのあたしの評価って
「焼け死んでお顔に惨い火傷でも残ったりしたら、うらめしや〜〜って化けて出るかもしれない」
って感じのもンだったのよね。
だから、自慢の玉のお肌をしこたま傷つけられたって言うのに、あたしがそのことについては何も言及していないってことで、妙に納得したらしいわ。どうやら裏はなさそうだ、って。
ったく・・・喜べばいいのか、人を何だと思ってるのか、って怒ればいいのか・・・☆
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とは言え。
今回のこの事件、完璧に全て丸く収まった、とはいかなかったのよねえ。
「そう言えば榊さん。彦一とお夏ちゃんは、無事向こうに着いたらしいですよ。陰ながら送り届けた涼浬が、そう言っていましたから」
「・・・それはよかったわ。近頃あちこち物騒ですからね」
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07月25日(日)
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