ID:38229
衛澤のどーでもよさげ。
by 衛澤 創
[134450hit]

■第九作。
都大会優勝の実力を持つ空手少女の蘭ちゃん、今作では何と関東大会優勝を果たしています。それが今作の結末へのちょっとしたキイになるのですが、これをもっと活かせなかっただろうかと残念に思うことこの上ありません。
というのも、後半のクライマックスシーン(……なのだと思う。「クライマックス」と言うにはあまりに盛り上がりに欠けたけれど)で美波子さんが何の伏線もなく徒手空拳術を見せたので、これは関東大会優勝の実力を持つ蘭ちゃんの腕が冴え渡るに違いないと期待したのに、とうとう蘭ちゃんは毎作恒例の足技を見せることすらなくそのシーンは終わってしまってがっかり。

「関東大会優勝」の前振りの後に徒手空拳お姉さんが現れて小五郎のおっちゃんを窮地に陥れていてその場にコナンくんがいない、となったら期待して当然と思いませんか。物語冒頭の前振りはこのための伏線だったのかと思って当たり前だと思いませんか。
すごい肩透かしを喰らった気分でした。

それから、小五郎のおっちゃんが柔術使いだということは第二作「14番目の標的(ターゲット)」を見ていて、かつ憶えている人でなければ納得しなかったでしょう。忘れている人、見ていない人もいることを前提に伏線を張っておいてあげるべきでしたね。

また、美波子さんが徒手空拳術を使うことにしても、貴江社長殺害の現場にしても……と細々と挙げるのが面倒なくらいに今作は伏線の張り方が雑でした。絵の粗と脚本の粗が目立って純粋に「名探偵コナン」を愉しむことができなかった、と言ってもよいくらいだと思います。第六作以外すべての劇場用作品の脚本を手掛けている古内一成氏の脚本だったのに、どうしたのかと。シナリオ文芸部門が手薄だったのか、古内氏が御多忙だったのか。

伏線が足りないばかりに「ええ〜?(語尾下がり)」と口に出してしまう場面に頻繁に遭遇することになりました。「御約束」までハズしてしまっていたしなあ。コナンくんがボートや水上バイクを操縦する場面では「ハワイで親父に教わった」をすっ飛ばしちゃ駄目でしょう。
「カフス型盗聴器」の伏線はあと二〜三箇所に、時間にして三〇分置きくらいに入れておくべきだったかな。「何でコナンくんがそんなこと知ってるんだ?」と思う場面が幾つかあったから。
全体的に「練り」が足りなかったかと。

必要な伏線がなかったり判りづらかったり、要らない伏線が沢山あったりと雑だった御陰で「二重」の「陰謀」の全貌が判りづらかったですね。「陰謀」を「plot」でなく「strategy」とした意味がかなり薄まってしまっていました。ストラテジックではなかったように思えた時点で表題の意味がなくなってしまいます。
物語の構造自体が何処かしらいびつな印象で、上映時間一一五分の映画が冗長に感じられました。五〇分経過したくらいに既に「まだ終わらんのか」と時計を見てしまったくらい。

劇場用作品は年に一度のお祭りであり、また新一×蘭の愛情や絆の深さ、また次第にそれ等が深くなっていっていることを十全に伝えなければならない、原作にさえ影響を与えるものなのですから、その点は重々気を付けねばならないはずなのですよ。なのに今作の蘭ちゃんの存在感の薄さと言ったら……。「ヒロインとして如何か」というところまで問いたくなるような扱いで。

小学生時代のエピソード自体はよく練られていたのにそれが活かされていなくてラヴ要素が薄かったな、と些か興ざめであります。劇場用作品では何処か一箇所でせつなーくさせて頂かないことには映画を観た気がしませんな。
というのは、サスペンス&アクションを優先させてしまって、蘭ちゃんが残っている船からコナンくんを離れさせてしまったのがよくなかったんだとぼくは思うのだけど、どうだろう。今回の背後霊さまの出方もいまひとつぴんとこなかったな。

ED実写パートは、「迷宮の十字路」路線を取りたかったのか女優(子役)さんを使っていましたが、誰にどう重ねて(投影して)見ればよいのかが判らなくて却って違和感がありましたね。

[5]続きを読む

04月29日(金)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る