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日常茶飯事×日常茶目仕事
by アキラ
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■やっちゃった。
視点からはなれ、視界の外に向かえば向かうほど瞳の中に映る景色はぼやけている。
「おはやく…」
荷物を積んでいた御者が、少年に恭しく声をかけた。
はじかれる様に振り返る。
とたん少年の瞳は現実の世界に引き戻され、アイスブルーに一瞬の揺らぎが走った。これから捨てていく幸せな世界と、その象徴とも言えた大切な妹のことが脳裏に焼きつく。
これから自分の身におこるであろうこと、自らで引き起こすであろうことを思い少年は小さく身震いをする。その中に、妹を引き込むことは出来なかった。彼女には、幸せだった自分の過去を思い出すための鍵であって欲しかったからだ。
なんて身勝手なのだろうと、自分の考えに頭を振りながらも、今自分のとっている行動も、彼女にしてみれば自分勝手以外の何物でもない事を思うと、自然と頬には自嘲の笑みが蓄えられる。
どうか君は、幸せに…
手すりに手をかけて車内に足を踏み入れようとしたときだったろうか、風が吹いた。
カタン。。。
閂と門扉が触れる音が軽く響く。
カタン。。。
音が何かを呼んでいるようで後ろ髪引かれる。
カタン。。。
そんなはずもないのに。 これは私の心の表れだろうか…
カタン。。。
このぬるま湯の世界にいたいと… ただ妹のそばで笑っていられたらと…
ガシャン !!!
少年の思考を打ち払うように、門扉は大きく揺れた。
「兄様!!」
かけたはずの足が固まる。
それ以上振り返ることも、車に乗り込むことも出来ずに立ち止まる。
妹の、それは聞きなれた私を呼ぶ声だった。
背中でその声を受け止める。
振り返りたかった。
一緒に行くと、連れて行って欲しいのだと、必死に声を上げる妹に、何処へも行かないと、傍にいてやると笑いかけてやりたかった。いつもそうするように優しく抱き上げてやりたかった。
けれど、それをするのはもう、自分の役目ではなかった。
彼女が「兄」と呼ぶ人間は、もうこの世から消えてなくなるのだから。
私の中で失われかけているのだから…。
「いやだ、放して!…にいさまぁ!!」
大人たちが彼女に追いついたのだろう。
彼女の声はだんだんと背中から遠くなる。
俯かずにはいられない頭を何とか持ち上げて、車に乗り込んだ。
「キャスバル兄様!!!」
妹の、それはたった一度の我がままだった。
人前で呼んではならぬと禁じられた名前。彼女はそれを守り通した。
父を失い、住み慣れたコロニーを離れて、この青い星に着てからも、私達は素性、あるいは存在そのものを隠さなければならなかった。遠くに聞こえる同じ年頃の子供達の声を耳にしても、それでも彼女は屋敷の敷地から黙って出ることはなかった。
『にいさまがいてくれるから…』
それはいつか、バルコニーから外を眺める少女に「寂しいか」とたずねて得られた答えだった。
思わず振り返ってしまう。
けれど、車のドアは閉じられて、スモークガラスの向こうの妹はもうほとんどおぼろげだ。
どんどんと小さくなってゆく妹の姿。
屋敷から離れゆく車。
妹の姿が見えなくなって、屋敷がはるか遠くに小さくなる。
パサッ…
ほとんどない手荷物の中から何かが落ちる。
軽い緑とやわらかい白。
シロツメクサ…幾重にも編みこまれた、それは冠だろうか。
『兄様にはヒミツ…。』
こぼれる涙の中、少年はじっと見ていた。
小さく温かく、ただ一つ守りたいと思う。自分の中の優しい存在、アルテイシアを。
屋敷のバルコニー、少女はただじっと小さくなる車を見ていた。
その瞳は少年のそれと同じようにアイスブルーの色をして輝いている。
「キャスバル兄様、お誕生日おめでとう。」
幼い頬の雫を、風がさらった。
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12月07日(金)
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