ID:34326
ドラマ!ドラマ!ドラマ!
by もっちゃん
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■飛ぶ夢をしばらく見ない〜希望が失速したら・・・
 時々、この言葉が口を突いて出る。「飛ぶ夢をしばらく見ない」
  
 それは、たいてい、心にエアポケットができたときだ。

 「飛ぶ夢をしばらく見ない」
 これは、原作:山田太一 脚本・監督:須川栄三 出演:細川俊之・石田えり他
 90年公開の映画のタイトル。原作は、85年に小説新潮で発表。

もう11年前か。不思議な映画だった。観るつもりは全然なかった。映画の日で、シュワちゃんの映画を観るはずだった。ところが、スゴク並んでいて、並ぶの嫌いな私はさっさとあきらめた。並んでる間に2本観れるやん!と。せっかく映画の日で半額やねんで!と。なぜこういう口調かと言うと、そう言って確か友達に違う映画を観る気にさせたのだ。「そうやな」ということで、本屋へ行って、情報誌で、上映時間と場所の都合のいいものを探した。3本ほど候補があった中で、タイトルに興味を惹かれ、これにしたのだ。2本観る勢いだったのが、観終った後、友達が、「気持ち悪い気がする」と言ったので、よく知らない映画を、幾ら半額の日だからといって2本、観ないと損!という関西人にありがちな気持ちにしがみつくこともないだろうと、お茶をした。そういう記憶がある映画だ。
何故、彼女が気持ち悪がったのか、少しわかる気がする。とにかく不思議な映画だった。そして、私はというと、とても切なくなったのだ。家に帰っても、それから数日も、なんだか、その映画のことを考えると、切なくて仕方がなかった。そして、未だに、ふと、やりきれないような思いになったり、ぽっかり心に穴ができてしまったような気持ちになったりした時に、ふと「飛ぶ夢をしばらく見ない」と、思ってしまう。

ここに書くのには、あまりに曖昧な記憶なのでサーチしたけど、検索ベタな私には、上記の情報しか得られなかった。改めて、へぇ、山田太一さんの小説なんだ・・・。だからと言って、多分読まないだろうけれど。鮮烈に覚えているのは、石田えりの演技と細川俊之の虚しい表情だ(これも演技だけど)。

(私の覚えている)物語は、細川演じる男が、勤めていた会社からも、家族からも見捨てられたような状態であったこと。偶然、彼は、入院先で隣のカーテンの向こうに寝ていた初老の未亡人と、カーテン越しに、不思議な会話だけで、悦楽に至るという、経験をする。その後、彼は、住宅展示場の勤務になり、そこに寝泊りする。そして、そこで、女に会う。年齢は覚えていない。既に男より若かったか、男くらいであったか。どの時点で、彼に彼女が、この信じがたい現実を話したのかも、どの年齢の彼女と、彼は愛し合うようになるのかも、忘れてしまった。男が出会った初老の女、その後会う女、それは全て同一人物、石田えりだったのだ。どんどん、会うたびに若返っている彼女。石田えりの、丁度彼女と実年齢の頃を、確か赤いドレスか何かを翻しまわってみせる姿が美しかった。これから、どんどん逆に歳を取っていく、取られていくと言うのだろうか、そういう状況を抱えている人には見えなかった。
ついに子供になった。(いくらなんでも石田えりでは無理やね)男が、少女をお風呂に入れてやるシーンがある。一種ロリコンともとれる。しかし、私には、イヤラシク映らなかった。親子にも見えないのだが、彼はあくまでも愛する女を慈しむように風呂に入れてやっているように、見えた。原因はなんだったかも、原因不明だったかも忘れてしまった。最後は細胞に戻ることを承知した彼女。最初は恐れていただろうか。ある時から、潔くなった気がする。姿を若返らせて登場する女を、同一と信じ、とてつもない真実を受け入れる男。そして、最後は、赤ん坊になった女を、彼は、ベビーカーの中に入れるのだ。最期まで見ている、それを望んだ男に、それを望まなかった女の意思を尊重したのだ。つまり、誰にも気づかれず、彼女は細胞に戻り、どうなったのか?彼女との非現実的な日々にこそ生きがいを感じた男は、その後どうしたのか?


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08月22日(水)
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