ID:34326
ドラマ!ドラマ!ドラマ!
by もっちゃん
[126878hit]
■プレゼントをあげる
音読していた本は、吉野朔美先生の「プレゼントをあげる」。毎日きちんと暮らしていた女の子。のほほんと一見しあわせそうにぼんやりと、一人ではあるけれど暮らしている女の子。ある雪の朝、間違えて宅配便が届く。近所だからと届けたら、新しい住人がいた。困りつつ、初めて歩いた近所に公園があったことを楽しんだりしつつ、でも困ってしまってベンチに置き去りにしようかとさえ思う。でも、それはとても「重い」ものに感じて、先住者を探し、届けようとする。不在。向こうから電話がかかってくる。送り主を告げると「今すぐ取りに行く」という。そして「開けるなら、人がいるところのほうがいいので」と、彼女の前で開けたいと申し出る。彼女は開けないまま夢から覚めてしまった福袋の中身でも見れるように、そして当然、届ける作業をはじめた時から、思い込んでいた「プレゼントを見たときの喜ぶ顔」を見たくて、快く承諾する。しかし、彼は最終的には顔を手でうめて、ひっそりと泣き出してしまう。水色の包装用紙で包まれ、黄色いりぼんをされた箱の中身はばらばらになったドライフラワーの花びらと、使用の痕跡のある黄色い手袋。それは彼が恋人にあげたものでした。「その人と私のいらなくなった思い出」そう言ってそれを持ち帰ってしまった彼。彼女は1人思う。
「幸福の記憶が人を泣かせる。
痛みが人をうつむかせる。
純粋な悲しみを受け止めるしかない残酷を、私は羨ましいと思う。
黄色い手袋とドライフラワーの詰まった宅配物。私はそれが欲しかった。」
「退屈ではない。
寂しくはない。
私はただ孤独だった。
人の悲しみを羨ましがるほどに。
孤独が私を傲慢にすると知る。」
そしてある朝、キャロットケーキとひなぎくをもって、彼がお礼にやってくる。彼は色々な話をする。「言葉に出来ないことを言葉にしようとする。そして黙る。」・・・帰ろうとする彼に「また遊びに来て下さいと、言えばよかった・・・」彼女はひまわりの種を植える夢を見る。ひまわりの種は見つからず、クロッカスを水栽培することにする。帰り道、偶然彼に出会う。荷物はまだ箱ごと置いてあるという。「捨てたくはないんです。でも、そのうちいつか知らない間に、何処に行ったか解らない事になっていて欲しいんです」という彼に「会わなければ良かったと思いませんか?」と尋ねる。彼女の死んでしまった犬たちの話を少しして「私も思いません。その人に会ったことは、私の人生のとても大切な時間だったんです。あの人もそう思ったから、思っているから、送り返してきたんです。」「解るんですか?」と問うと、うつむいていた彼は「解りません、ほんとはね」顔をあげて笑う。彼女はだんだん彼が好きになる。「クロッカスが咲いたら見に来ませんか?と言えばよかった・・・」そして、ある日、クロッカスに根がはえる。クロッカスの花を黄色にするんじゃなかった・・・と、後悔。
その次のページからの言葉がまたとてもよい。退屈ではなく、寂しくもない、ただいつのまにか人の悲しみすらを羨ましがるほど傲慢になるほどに孤独ではあったけれど。日常をちゃんと生きていたはずの彼女、朝食のりんごはそろそろキウイが苺に変えよう、生活はきちんと送っているのだ。クロッカスの根にステップをふめるほど喜びも感じられるのだ。しかし・・・。
「誰かに会いたかった。
会ってクロッカスやひまわりや犬の話がしたかった。
間違って届いた宅配便や自転車の話がしたかった。」
「ひとりで考えるそれらは いつも過去形で語られる夢のようで
夢のようで
私は悲しかった。
悲しくて悲しくて悲しくて悲しくて」
そして、彼女は家中のものを洗濯する。だけど、花の花弁や春のちり、緑の吐息といった春のものが洗濯物を汚す。洗っても洗っても、汚れてしまう。春なのに「私は悲しかった」。春だからこそ?そんな彼女は、手袋やらクロッカスやらがデッサンの狂った息苦しくて苦しくなるような夢を見る。「あんまり苦しくて生きていることを切実に実感する」そんな夢。
「水。
水が欲しいと思う。
だから、誰かに水をあげたいと思う。
あげようと思う。
[5]続きを読む
03月08日(土)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る