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ドラマ!ドラマ!ドラマ!
by もっちゃん
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■「こんにちは、母さん」@舞台中継をテレビ鑑賞
 息子の帰宅前、訪問者があった。それは、リストラした同期。外部労組に入り、裁判を起し、解雇取り消し、退職金は支払われ、仕事も今の経験を生かせるところを斡旋してもらえた。総て「悪魔」呼ばわりしていた、息子のお陰だと言う。会社は絶対に謝らない。彼が個人で彼に、謝罪の手紙を書いたのだ。帰り際、男は、息子に「妻にも手紙を見せたよ」と爽やかに去っていく。

 「母さん」は、飲みながら言う。「これは神様が試してるんだ」東京大空襲で、自分ひとり家族の中で生き残った時のことからはじまりる。この物語は、ある意味、雑然としている。下町の家。セットは変わらない。しかし、そこでの3ヶ月。国際ボランティア。近所の老人と毎日交替で「生きてますか?」と電話しあう習慣。70代の恋。壮年期のリストラ。大切な人の蒸発、戦争の傷跡。二組の夫婦の離婚の危機。そして、「直ちゃん」の死。素材がありあまるほどである。焦点はどこなのか?どこかカットできないのか?(3時間近くの芝居なので)でも、本題は、ここからなのではないかと思った。そのための、日常の人物の断片が、ある心地よい流れで、生活があるように、組みたてられているのではないか。

 「母さん」と息子は、2人で一升瓶の取り合いをしながら、まるで、不幸自慢を始める。母の、老いていく動けなくなる日が、近づく恐さの中の希望、それが「直ちゃん」だった。それがなくなった。息子は言う。「それは、いずれボクにも訪れる。母さん特有の不幸を言ってもらわないと。ボクは、今日会社から退職を勧められた。(あの男のリストラの方法がうまくなかったからだ)そして、離婚届にもハンコを押した。僕の方が不幸みたいだ。僕の年で、母さんこのくらい不幸だった?」もう笑いながら言っている。「僕の勝ちだね。」「何言ってるの、今ので、母さんの不幸は2倍になったわ。」でも、母は言う。「直ちゃん、喜んでるわ。自分のできないことをしてくれて、父さんも誇りに思ってる」

 その中で、ビートルズの落書きの日、彼は父にぼこぼこにされた話をやっと語る。母は「謝りなさい」と繰り返した。息子にとってショックだったのは、恐かったのは、父の怒りでも、暴力でもなかった。「最初、僕の絵を見たとき母さんは褒めてくれた。父さんの前でも褒めてくれると、父の帰りをワクワクして待った。父が怒った時。母さんは、父さんを恐れてばかりいた。ぼくは、本当に困った時に、母さんが僕を助けてくれない事がわかってショックを受けたんだ。母さんが信じられなくなった事が怖かったんだ。」

 初めて、息子の本音を聞いた母。必死で息子を探し、見つけ、その夜、夫は、何度もうなされた。そして、階下の鏡の前でじっとしていた。表の車で鏡が光って、夫の形相が浮かんだとき、声がかけられなかった、恐ろしくて。その時妻は思った。この人は人を殺した事がある。戦争に行ってたんだから当り前だと思っていたが、本当の意味でそう実感した。しかも、子供を・・・。昔は子供好きの男だった。ところが、戦争から帰ってから、自分の子供に対してもどう接していいか分からないような態度だった。

 「あの時、母さんが聞けばよかったんだ。」息子は答える。「聞いたって答えやしないよ。」「それでも、聞いてみればよかった。」「聞いて聞いて、聞きつづければ、あるいはいつか・・・」。「言わない、ということは、受け入れてもらえないと思うからだ。言っても誰も聞いてくれないと思うからだ。聞かない、ということもそういうことだ。私は、受け入れるのが恐かった。あの時、聞いていれば・・・。」
 作者のポイントは作者にしかわからない。でも、一見不必要とも思える挿話や、人物の出来事を考えると、すべて、この母の幕まであと10数分というこのセリフの重みが、ずっしりと心に沈む。

 隅田川の花火がどーん、どーんと音を響かせる。この日は、本人は忘れているが、息子の誕生日だった。2階へ誘う母。いいよ、と断る息子に、母は、「偉かったね」と言い、ベランダに上がり、花火を見ながら、「私はこの2階でお前を産んだ。花火が、世界が祝福してくれていると思ったよ。」清々しい「母さん」の顔が花火に照らされるのだった。そして、この日から、母子の対峙が本当に始まるのかもしれない。


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12月09日(日)
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