ID:3398
へそおもい
by はたさとみ
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■底の方にいる
真夜中に
細い帽子をかぶったおじさまが
自転車をこいでいる。
ペダルを漕ぐ音が
耳の中で
おおきくなって
くるくるまわる車輪が
目の中に一杯になって
しまいには
まっしろになってしまう。
まっしろになって
アスファルトに倒れこんで
目をあけたら
太った三日月がみえた。
三日月は嫉妬していた。
相棒は
カシスソーダ一杯のんだだけで
畳の上でいびきをかいている。
わたしは
なにかに追われていて
自分しか頼る人がいないことは
わかっているくせに
誰かに頼ろうともがいている。
でももう
まわりには誰もいない。
ひとり超能力者がいたのだけれど
その人はいま趣味の念写に夢中で
話にならない。
仕方がないので
昔教えてもらった
呪文を唱えた。
白ウサギのような呪文だった。
その呪文は
太った三日月をすりぬけて
どこかしらない場所に
伝わったような気がした。
昼間はあついけど
夜のアスファルトは冷たい。
風は山をとおりぬけてきた
夏の匂いがする。
ああ
遠く遠くに
いきたい。
06月12日(日)
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