ID:31657
to Die
by 293とうめこ
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■曖昧
堕威がいない。

夜中、目が覚めた。カーテンの隙間から月明かりが差し込んでいる。
今俺達はバスの中だ。海外でのフェスツアーの移動用バスである。
耳にはメンバーやスタッフの寝息が入ってくる。
俺はそれを聞きつつ、寝ぼけ眼でぽりぽりと髭の生えた顎をかいた。
それは俺の癖の一つ。
俺は上半身を起こし、小さく屈伸。
そしてふっと息を吐き、ふいに気付く。

あぁ、堕威がいない。

いつもは真上から寝返りの音や、小さな寝息、そしてかわいい寝言が聞こえるのに。
今日はまったくの無音だ。きっと彼はいない。
気になって上を見ると、やはりベッドは無人で、急に不安になる。
そういえば、昼頃ラウンジで寝ていた。
BBQの時には起きてビールを煽っていたけど、もしかしたらまた同じ所で寝ているかもしれない。
上のベッドは寝乱れているけれど…朝からこの有様だったから、どうにも信用ならないのだ。
俺はそっとベッドルームを飛び出し、ラウンジへ。
真っ暗な室内に入りそっとソファーを覗く。
しかしそこに彼はいない。
もう一つのプチラウンジも見てみるが、そこももぬけの殻だった。
俺の中で不安の色が濃くなってゆく。
こんな所で居なくなるなんてあり得ない。
あってはいけない。
トイレを見た。(居ない)
簡易キッチンや自分で作った簡易PA室も見た。(居ない、居ない、居ない)
もう一度ベッドを見る………居ない。
あぁ、井上に言うか、メンバーも起こそうか。
そうやって脳内でぐるぐると思いおこしていると、ふいに外から声がした。
堕威の声だ。
俺は一も二もなく外へと駆け出る。

居た。

何か男と口論をしている。
俺はそれにぎょっとして堕威の方へと向かった。
「堕威、どないしたん?」
近くに行くと堕威と一緒に居る男が誰なのかはっきりしてきた。
あれは…最近堕威と意気投合してよく一緒におった奴や。
しきりに堕威に何かを言っているが、俺には早すぎてリスニングできない。
そしてとうとう堕威がキれた。

「ばか!あほ!お前なんてもう絶交や!!」

相手に意味は伝わってないだろう、日本語の罵声である。
俺は堕威のその言葉に場違いな安心感を得る。
いくつになってもどこか子供っぽい彼の物言いは俺の不安を拭ってくれる。
俺はこちらに向かってくる堕威を胸に迎え入れるため、腕を広げる。
堕威はそれが当然の様に俺の腕の中に入り、ぎゅっと抱きついてきた。
俺もそれを抱き返す。
堕威は俺の肩口に深く顔をうめ、体を固くしている。
「何があったん…?」
堕威の背中を弱くさすりつつ声をかけてみると、堕威は今まで以上にぎゅっと抱きついてきた。
どうやらここでは喋りたくない様子。
「中、入ろうや。カフェオレ作ったるから。飲もうや。な?」
そう声をかける。
すると堕威はすっと体を離し、小さく頷いた。
それを見た俺は堕威の手を握るとそのままバスの中へと連れて入った。
その際、ちらりと堕威が口論をしていた場所を見る。
口論の相手はまだ居る。真剣な顔でこちらを見ていた。
俺はそれを無視してその場を足早に後にした。

***

ことりっ
堕威が飲み干したカフェオレのコップを机の上に置き、大きく息を吐いた。
やっと人心地がついた様だ。
俺はそんな堕威のカップを取りもう一杯カフェオレを入れてやることにする。
「も、いい」
しかし堕威にそう言われ、中腰になっていたものを、再度ソファーへと腰をおろす。
「もう、ええんや」
俺はそう口にする。カフェオレを堕威は好んで飲むから、いつも一杯では終わらないのだ。
「ん、今はそれより話したい」
堕威が真摯な声で言ってきた。
それを聞いて俺は腰をあげた。
堕威はそれに驚いた表情を見せる。
「やったらなおさら、いるんやないん?喋ったら喉渇くやろ。あ、でも飲み過ぎたら眠れんくなるから、ウーロン茶買い足してあるん。それ入れてくるわ」
俺は堕威にそう言うと小走りにお茶とコップを取りにいった。
すぐさまそれを見つけて取ってくると、堕威の前にコップを置き、お茶を注いでやる。

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10月29日(日)
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