ID:31657
to Die
by 293とうめこ
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■場所
それは夏の蒸し暑い日だった。
薫は手ぬぐいで汗を拭き拭き、山を登っている。
薫にとっては通い慣れた山。
なのでだいたいの道は把握できている自信がはあった。
薫はこの山の麓の小さな小屋に住んでいる。
そこで竹細工を作り生計をたてていた。
今、彼は竹を取りに奥へと入っているのだ。
薫が住む小屋の辺りから登り、側面をぐるっと回った裏手側。
そこには大きな竹薮があり、質の良い竹が生えている。
小さな山なのでいつもそこに行くのには四刻もあれば十分だった。
しかし今日はやけに道のりが長い。
行けども行けども竹薮が見えないのである。
薫はあまりの事にこれはおかしいと立ち止まる。
そして冷静に辺りを見回してみると、そこは見たこともない場所であった。
道を間違えて山のもっと奥へと入ってしまったのか?
薫はそう考え、近くにあった岩の上どさりっと座った。
何刻歩いたかは分からないが、腹が空腹を訴えている。
薫は持ってきた握り飯を取り出しかぶりついた。
元来た道はわかっているのでそんなに急ぐ事もないだろうと、煙管も取り出し一服。
少々高い所に来てしまっているのか、いつもの道よりもそこは涼しく、居心地が良くて薫は気分を良くしている。
がさりっ
岩の右手から草をかき分ける音がした。
どうやら人が来た様だ。
あぁ、未開の地ではなかったのか。
薫はその音に安堵した。
しかし、その安堵も次の瞬間には驚愕にかわっていた。
出てきたのは薫よりも身の丈の大きい男。
この場には似つかわしくない小奇麗な着物を着ていて、顔はなかなかの男前だ。
しかしながら彼の髪は長く、禍々しい程の赤を帯びていた。
薫はその姿に驚き、声も出なければ動くこともできないでいる。
しかし相手のほうはそんな薫の様子などかまいもせず、薫の横に座ると自分も煙管を出して一言。
「火ぃ、貸してくれへん?」
薫は目を見開き、驚愕の表情のまま何度か頷くと持ってきていた火打石で火種を作ってやる。
相手は火がつくとゆっくりと吸い込み、煙を吐き出した。
「あんたいつもここまで来る?」
にこにこと眩しいくらいの笑顔で問いかけてくる。
薫はその笑顔と赤い髪のギャップに混乱しながらもいや…と短く答えた。
「ふーん。俺もな、ここまで来たんは初めてやねん。ちょっとはしゃぎすぎてもーた」
何にはしゃぎ過ぎたんだろうか?薫はその青年に強く興味を抱いた。
「どこから来たん?」
「この山のもっと奥。俺みたいな見た目どっか違うのとかが集まって作ってる集落があるねん」
赤い髪の青年はそんなことをあっけらかんと答える。
「そんなんあるんや。知らんかった」
薫が関心して答える。
「そりゃそうや、人間は辿り着けん」
にっこり微笑み赤い髪の青年は答えた。
『それは体力的になんやろか、それとも空間的な事なんか?』
薫は青年の言葉にそう考えるも、まぁ良いかとすぐに考えるのをやめた。
この青年の話は面白く、悪い奴ではない。
その事実さえあれば良いと思ったのだ。
そのまま二人は岩に座り話こむ。
自分の仕事、自分の住む土地、他愛のない日常。
話は弾みに弾み、気がつけばもう太陽は西日になっていた。
「あぁ、もうそろそろ帰らなあかんね」
それに先に気付いた青年がすくっと立ち上がる。
それを見た薫も立ち上がり夕日を見た。
「じゃあ帰るな」
青年が明るい声に薫に言う。
薫はハッとして青年の方を見遣ると、元来た方向にがさがさと入って行く途中であった。
薫はその背中に急いで声をかける。
「じゃあっ!」
急ぎ過ぎてそんな言葉しか出てこなかった。
しかし青年はそれに対し、振り返り、にこっと微笑んで去っていった。
薫もしばし青年が消えていった方向を見ていたが、自分が元来た方向へと歩きはじめた。
その後、薫は何度も青年と出会った場所を探してみたが、ついぞ同じ場所には辿り着けなかった。
09月04日(月)
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