ID:31657
to Die
by 293とうめこ
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■夜行路
こんな鬱血した月があがる日は、物の怪共が地を這う。
夜行路
「ほんま気ぃつけて」
心配そうな声音で心夜はそう言うと、火打ち石を二度程こすりつけた。
「髪染めと袈裟、ありがとな」
俺はそんな心夜を安心させたくてわざと明るい声で礼を言う。
「ほんまに泊まっていかんのか?…………こんなお月さんの日は悪いもんが夜うろちょろするで」
心夜の後から京が顔を出し言う。
「一里程度の距離で何を………大丈夫やって」
俺はそんな京に笑いかけじゃっと手をあげるとさっさと店の前を後にする。
二人はわざわざ入り口前へと出て暗い道へ進む俺を見送ってくれた。
しかし失敗した。
久々に旧友の元に出向けたからついつい話し込んでしまった。
幼なじみだった兄弟。
二人は小さい頃俺の家のほんの目と鼻の先に位置する長屋に暮らしていた。
年が近いうえに何となく馬があったもんだから仲良くなるのも時間はかからなかった。
俺の親は武家人だが町民とえらく仲が良い人で、母なんかは町の行事には常に出ていたりする。
ほかの武家屋敷の奴らなんかはそんな俺の家をミソカスみてぇに言いいやがるけど、俺はそんな父や母が好きだったし京や心夜みたいな親友も居たからそんな悪口も右から左であった。
しかしある日二人の長屋が火事になり、両親とも火にまきこまれ親なしになってしまった二人は親戚の家へと預けられることになり遠くへ行ってしまった。
心夜と京の親は駆け落ち同然だったらしく、身よりが無いので当初はうちで引き取る手はずだったが、どこから風の噂を聞き付けたのか親戚と名乗る人物が出てきて引き取っていった。
優しいそうな人であったから両親は納得した様だ。
しかし幼かった俺は散々泣いて駄々をこねたらしい。
今となってはお笑い草である。
その二人がこの辺りに帰ってきたのは先月であった。
世話になった親戚の家を離れ二人で町外れに小さなそば屋を立てたのだ。
一度俺の家に二人して訪ねてくれたらしいが俺は悔しくも不在。
使用人が預かっていた書面でその事を知り、ようやっと暇ができたので訪れたのだ。
久々に会うものだから話ができるかどうか不安であったが、二人と顔をつきあわせた途端それは杞憂であったと自覚させられた。
二人は大きく成長したものの昔の面影を色濃く残し、昔と変わらぬ笑顔で俺を迎えてくれた。
しかも俺のために早々に店を閉めて料理や酒で持て成してくれた。
そうして時間が過ぎ去るのも忘れ久々の逢瀬を楽しんでいて……今のいたる。
気付いた時には外はとっぷりと暗くなっていた。
これはまずい!と俺がそそくさと帰る用意をしていると、ふいに京が”泊まっていけ”と言い出した。
しかし俺には明日仕事があるし、それに急に泊まるのも無礼なものである。
その申し出に断るも京はけっこう長く食い下がってきた。
何でも今日の様な暗い月の日は嫌な事が起こりやすいとか。
心配してもらえるのは有り難いが俺は男で武家人である。
一応それなりの自信と自尊心がある。
だから京の再三の願いもすべて断った。
すると今度は”せめて髪染めだけでも”と言う。
あまりにも強く言われるので噛み染めだけならばと引き受けたのだ。
俺の髪は赤い。生まれつきである。
この髪は何かと畏怖の対象になる。
小さな頃から何度鬼子だと罵られた事か。
その度に喧嘩沙汰になってしまい両親にこっぴどくおこられた。
しかし俺はこの真っ赤な髪が気に入っている。母や父に椿の様な朱だと褒められて育ったからだと思うが。
そんなもんだから俺は椿という花が妙に好きであった。
髪染めをしてもらい、袈裟まで貸してもらい帰路につく。
この間まで春だった空気も最近はじめじめと湿気を帯び、気持ち悪く身に纏わり着く様になってきた。
一里程度と言ったものの、途中暗い林道を通らなければならないから結構恐ろしいものがある。
しかしながら今さら恐いから泊めてくれと帰るわけにもいかないし、何よりこれしきの事でへばっていては武士の名に恥じる。
俺は先ほどまで二人と会話していた事を思い出し、いつもよりも早足で道を歩く。
月が暗いものだからまわりが見えにくい。
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06月11日(日)
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