ID:31657
to Die
by 293とうめこ
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■影
ざーざーと細かい雨がひっきりなしに降ってくる。
そのせいか辺りはいつもより藍が色濃い。
霧が出ているので視界も悪かった。
そんな夜の暗い町に男は立っている。
傘もささずにVネックのシャツの上に黒のライダースを羽織った姿で立つ彼は、男にしては長い髪が頬や首筋に張り付いてしまっていた。
どうやらけっこうな時間そこに立っていた様だ。
時おり腕時計をチラリと見やり、溜め息をつく。
そんな事を数分おきにやりながら、それでも彼はそこに立っていた。
雨は止む気配がない。
彼の身体からは白い湯気が出ているし、彼の唇は少々青い変色していた。
パシャッパシャッ。
しかし不意に水を弾く足音がまわりに響きはじめた。
その音は除々に彼の居る場所へと近付いてきている。
チャラチャラとシルバーがこすれる音、カチカチと携帯を弄ぶ音も段々と耳に届く様になってくる。
そして、パチンと携帯を閉じる音がしたかと思うと、

「薫くん」

雨濡れの彼の待人であろうその男はいたって普通に言葉を発した。
「遅いで堕威」
薫という名のその男は不機嫌も露な声で堕威という男を詰る。
すると堕威はまったく悪びれた素振りも見せずごめんと謝りの言葉を口にした。
そして自分が差している傘の中に薫を引き入れる。
薫は素直にその傘の中に入ると、そっと堕威の頬に手をやり唇を塞ぐ。
堕威は抵抗せず、むしろそれが当たり前かの様に瞼を下ろした。
傘が雨粒を弾音や降り続ける雫の音と共に舌と舌が絡み合う艶かしい音が傘の中で響く。
その音が耳に入り興奮が増したのか、いくらかすると堕威の腕が震えはじめる。
それを見てとった薫がちぅっと下唇を吸い、それを最後に堕威の唇をキスから解放した。
堕威は少々ふらつくものの、薫に支えてもらいどうにか倒れずにすんでいた。
「こんな所でこんなキス…」
はぁはぁと荒くなった息を整えながら堕威は薫にそう抗議する。
「待たされたんやからこんくらいええやん?」
薫はそれに対して実に飄々とそう答える。
先ほどの怒りはこのキスでどうやらチャラにした様だ。
「………ベビードールやな」
薫がおもむろに言う。
「薫くんはエンジェルハートやん」
堕威はこう返す。
それは彼等が纏っている女性からの移り香。
「しゃーないって割り切ってても嫉妬してまうな…お互いやっぱホモなんばれたらあかんしな…」
薫は寂しそうに堕威の頬を撫でながら言う。
堕威は薫のその仕種に悲しそうな表情を浮かべた。
「相思相愛やのんな…。それに彼女らには悪い事してる…。あの娘らは俺らん事を純粋に好いてくれてんのに…」
堕威の真摯な言葉に薫も苦々しい表情。
しばし沈黙が空間を支配する。
「……行こうや。ここ寒いし…時間がもったいない」
しかし堕威のこの言葉で重い空気が揺らぐ。
薫もそれにちょっとホッとした様な表情を浮かべ大きく頷いた。
二人は手を取り合い相合い傘で歩きだす。
その歩調はしっかりしたものだ。
しかし、二人の背中に落ちた影は色濃くなるばかりでいっこうに消える気配はなかった。


END

二人の関係を隠すために偽カノが居る酷い男な薫と堕威ちゃん。
多分お互いの彼女にはばれてる。女性の勘は鋭い。

つぐみでした。
05月21日(日)
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