ID:31657
to Die
by 293とうめこ
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■手袋
堕威は手袋を着ける習慣がなかった。
代わりにカイロを手に持ち、しきりに転がしている。
「俺の手袋片方だけでも貸してやろうか?」
一緒に歩いてた敏弥が見兼ねてそう言う。
「んーん、ええねん」
しかし堕威はそれを受け取らず、にっこり笑ったのだった。


手袋


送迎を断り、堕威と敏弥は二人で歩いて繁華街にくり出した。
敏弥が"女に教えてもらって気に入った"というダイニング・バーで食事をとり、その後は居酒屋でいつもどおりたらふく酒を飲んだ。
ダイニング・バーで男二人は不毛やなーっと言い焼酎をかっくらう堕威に、
居酒屋でも不毛だって!と梅酒ロックを飲みながら敏弥が答えた。
センスの良さを誇る敏弥が気に入っただけあって、店の雰囲気も食事の味もとても良い店であった。
しかしそういう店にいつまでも慣れない堕威は少々怖じ気づいてしまい、敏弥に気を使わせてしまったらしい。
なので"飲み直し"に居酒屋なのだ。
堕威はくだらない話をしながらダラダラと飲むのが好き。
周りの者は皆それを知りすぎな程に知っていた。
その帰り道、堕威がコンビニで小さなカイロとビール2缶と数点のつまみを買うのを敏弥は見た。
コンビニから出るとすぐに堕威はカイロの封を切り、中から本体を取り出すと横のゴミ箱にカス袋を捨てた。
そして両手でそのカイロを揉み解しはじめる。
敏弥はそれをジーッと見ていた。
しばらくしたら堕威のソレはあったかくなってきたのか、今度は手に押し付けはじめる。
「俺の手袋片方だけでも貸してやろうか?」
一緒に歩いてた敏弥が見兼ねてそう言う。
「んーん、ええねん」
しかし堕威はそれを受け取らず、にっこり笑ったのだった。
敏弥はあっそと言いながらもそんな堕威を見続けた。
おおかた、カイロを毎回買う手間とコストを考えたら手袋買った方が良いだろうに…等思っているのだろう。
堕威は嬉しそうにカイロを転がしている。
しかしそのカイロも何を思ったか、すぐ上着のポケットの中へとしまいこんでしまった。
敏弥はそんな堕威の行動が不思議でしかたなかった。
しかし堕威にとってそれは当然の事らしく、良い感じに酒でもまわっているのか、鼻歌まで歌っている。
手はすぐに冷たくなったのか、ぎゅっと握りしめていた。
敏弥は先ほどの事が有ったからか、もう手については話をしないようだ。
堕威は"あっ、お星様"とか子供の様な事を言ってそんな敏弥には気付いていない。
敏弥も敏弥でそんな堕威には見切りをつけ、受信したメールに返信をしはじめた。
そうやってマイペースに付き合うのがこの二人のスタンスなのである。
「だいー」
堕威の住む場所からそう遠くない、敏弥と堕威が別れる小さな交差点。
そこに差し掛かろうとしたとき、ふいに遠くから声が聞こえた。
堕威がパッと明るい表情を見せたかと思うと瞬間、その声の方へと脱兎の如く走って行った。
声の主は薫であった。
二人は恋人で、一緒に住む程の仲である。
「薫くん!どないしたん?」
堕威が嬉しそうに薫の腕に抱きつく。
その仕草はあまりにも子供らしく、気持ち悪いと思う前に微笑ましく見えてしまう。
「ん?ちょっとお姫さんを迎えに来てな」
薫は堕威の頭を撫でながらそう堕威に言った。
堕威はそれに対してもっとギュッと腕に抱きつく。
それに笑みを深くしながら薫は敏弥に手をあげた。
敏弥は堕威が走り去った付近で律儀に待っていた。
敏弥はその薫の仕草に苦笑いを浮かべ、自分も小さく手をあげると交差点を右へと曲がって行った。
堕威はそんな敏弥にぶんぶんと手を振る。
そして敏弥の姿が完全に姿を消すと、二人も自宅に帰るべく後に向き直った。
堕威は振り返り様、薫の手を掴むと指を絡め薫のポケットの中へと二つの拳を入れた。
「堕威、手ぇ冷たいで」
「うん、寒いからしゃーないねん」
堕威は嬉しそうにそう言った。
カイロはポケットで熱を発しすぎている。
しかし堕威はそれを取ろうとしなかった。
薫も、そういう不粋な事は言わなかった。
お互いにそれが暗黙の了解であった。

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01月07日(土)
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