ID:31657
to Die
by 293とうめこ
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■空の遠近
空が遠いなぁ・・・・
何の気なしに眺めた空は死ぬ程遠かった。
死ぬなんて言葉軽々しく使うもんやないけど、俺はちょっと大げさに物を言う癖が有って、これもつい使ってしまうねん。
「薫くん、空遠い」
仕事してる薫くんのイヤホンを無断ではぎ取り、わざわざ耳元で言ってやる。
するとあからさまに顔をしかめ俺の顔をあっちの方向に押しやった。
こらっ!俺のパーフェクトな男前が崩れたらどうすんねん!!
薫くんはそうしながら窓の外を俺と同じ間の抜けた瞳で見つめる。
そして一言
「遠いっちゃあ遠いなぁ〜」
瞳と同じ間抜け色の声。
「どーでもええって感じや」
俺は眉をしかめ薫の頬をつまんだ。
海外で俺と飲んで食ってした頬は幾分か脂肪を付け、つまみやすい。
むにっと頬の肉が指に挟まり、薫くんの顔は歪んだ。
「いたっ!堕威、何すんねん!」
薫くんが睨み付ける。
でも恐くない。だってその瞳からは間抜けさが抜けて笑みがこぼれていたから。
「薫くんが真剣にきいてくれんのがいかんねん」
俺はなおも薫くんの頬をつまむ。
「そんなん・・・俺は堕威ちゃんとメンバーとギターが近くに有ったらそれでええねんもん。空なんて先の見えんもん遠くても近くてもどっちでもええ」
頬の伸びた間抜け顔で、笑み色こぼれる切れ長の瞳で、ちょっとぷっくりしたその表情で、
薫くんはそんな真摯な言葉を吐き出した。
あぁ・・・全然かっこよくないし。
でも嬉しい。俺的にはかっこいい。大好き。
薫くんの言葉が嬉しくて俺は頬を話して薫くんにぎゅーっと抱きついた。
薫くんはぽんぽんと頭を叩いた。
優しい圧力に幸せな気分が溢れる。
「薫くん大好き・・・」
俺はそう言って薫くんににっこり微笑んだ。
そして背後を振り返ると、空がさっきより近くなっている様な気がした。
こういうのは気分の問題なんやなぁと喜悦に満ちた脳で思う。
そしてその裏で空がちょっと落っこちてきたのかなとメルヘンな俺が考えていた。
そうなら空は遠いままでいてほしい。
その思考は引き寄せる薫の手の存在に打ち消される。
そして数瞬後、唇が重なりあっている時にはもうすっかり空の遠近は蚊帳の外。
すべては薫くんの事でいっぱいになっていたのだった。


end

09月09日(金)
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