ID:31657
to Die
by 293とうめこ
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■産前の痣
それは朝のほんの20分足らずの出来事でした。
「ん………」
目を覚ますと生活感の有る暗闇が眼に写った。
壁時計の無いこの部屋は時間感覚を鈍らせ、時間を知りたい時にはもう一度寝入りたいのを押して、携帯で確認をしなくてはならない。
俺はいてもたってもいられず、コンソールを探り指にあたったそれを掴む。
寝転がったまま携帯の側面を押すと、サブディスプレイがパッと光った。
AM5:13
小さく表示された文字を確認しディスプレイ全体を見る。
そこには今まさに自分が転がっているベッド、そのベッドに一緒に眠っている彼が映し出されていた。
それを見るとついつい笑みが浮かぶ。
俺はディスプレイに映るその人を目で確認したくて、携帯をゆっくり置くと寝返りをうち眠る彼をを見つめた。
触れたいと思う。
彼に触りたい、その顔にかかる前髪を梳き額にキスを落とし強く抱きしめたい。
この感覚は刹那的なものではなく、彼を見ていると毎度思ってしまうこと。
眠っているものをおこしてはいけないと逡巡する。
しかし次の瞬間にはその様な不安も一気に後退し、俺は欲求のおもむくまま彼に触れてしまうのだ。
そう
それはいたって普段通りの事だから
彼のその調った面立ちに手を延ばし、触れる。
瞬間
いきなり目の奧がスパークしハレーションをおこした様になる!
頭のてっぺんから各所の指先、爪先にまで軽い電流が流れた様な痺れが浸透し、俺の感覚を侵食した。
意識が 持っていかれる感覚。
何年ぶりかのダイブ。
俺は抗う事も敵わず、その奔流の様な意識に飲み込まれた。
****************
薫くん感応能力者って知ってる?
あ??何それ
触れた瞬間その人の思考がわかったり魂の記憶を見たりする人
魂の記憶?
前世ってやつ。
あぁ………難儀な人間やのぉ、人に触れたらって、そんなんまともに生活できんやん
そう。やからひた隠しにするんや。その人からどんな思考を読み取っても…
………………
俺な…………そう………やねん
………俺の愛も読み取れた……?
んふ………それがな………薫くんだけは………何も読めへんかった…触っても……とても静かやねん……それが嬉しかったけど………悲しくもあって………
ふぅん…やったらよかった事にしとき。俺、堕威くんが落ち着ける場所になれるんやったらそれでええし
………ありがとうな……
そのはずだったのに
****************
目をあけるとそこは見た事もない土地だった
家屋は藁葺き屋根の、大きいが最低限の機能性しか持たぬ土壁の家。
辺りは田んぼだらけで、遠くには緑美しい山々が見える。どうやら今は夏の様だ。
そう思った瞬間ドッと全身に熱気がまとわりつき、汗が首や額を流れる感覚がしてくる。
だがしかし、こんなものはただの脳のいたずらであり、実際は暑くもなく、汗もかいていないのだ…と俺は高を括った。
何故ならこの様に人の魂の記憶を読むときはたいてい自分は意識だけの存在となり、彼らの中にある過去の話を寝物語でも聞くかの様な心地で窺うだけだからである。
そう、今俺が見ているのはまさに薫の魂の記憶なのだ。
今まで触れても一度も流れてこなかった彼の内なる情報。
彼すらも知らないであろう魂の歩んだ軌跡。それは見てはいけないものだとわかっていても………何とも魅力的で甘露なものであった。
ふと我にかえり前を見据える。
長い畦道が見えない所まで続き、生える草花をいきいきと風になびかせている。
空を飛ぶ野鳥やせわしなく主張の声をあげる虫たちは、目に耳に何故か懐かしく感じられた。
デジャヴ
ふいにおこるそれにいくらかの戸惑いを覚える。
俺はいたたまれなくて辺りをキョロキョロと見回した。
すると遠くに人が見える。
彼はこちらに来ているらしく、しかも急いででもいるのだろうか、袴の裾をばたつかせて走って来ている。
誰か居るのか手を振っている様だ。
しかしこちらには俺以外の誰もいない。
その時ようやっと気付いた。
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03月30日(水)
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