ID:31657
to Die
by 293とうめこ
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■曖昧
小さくありがとーっと言われ、俺は微笑んだ。
「で、どないしたん?」
腰をおろし問いかける。
堕威は瞬間、あからさまに表情を変えた。
きょろきょろと視線をさまよわせ、ちらりと俺を見る。
俺は仕草だけで問い返す。
すると堕威は、ふぃっと視線をはずして思案顔。
そして意を決したのか、口を開きつぶやいた。
「唇に、キス…されてもーた」
俺はそれを聞いた瞬間、キーンと耳鳴りがし、頭から色々なものがすぽんと抜けた様な感覚に陥る。
今堕威は何と言ったか。キス?何でだ?
そんなの決まってる。奴は堕威が好きだからだ。
それに思い至った時、俺の中で沸々とわき上がるものと、情けなくもじくじく疼くものが同時に巣食った。
色々な感情の波が、奔流となって俺を襲う。
「一緒にお酒飲んでたん。夜起きて外出たらおったから…。最初はな、他愛もないこと喋ってたんやけど、いきなりあっちが”お前はKAORUとつきあってるんだろう?って」
堕威が俺を置き去りにして話を進めていく。
待て。待ってくれ。堕威、お前は何を話している?
感情の波が強すぎて俺は混乱のあまり堕威の話についていけていない。
何が言いたいんだ。何がしたいんだ。やつは。堕威は。俺は。
キス一つでこんなにかき乱されるなんて、俺はなんて矮小な男なんだろうか。
「それで、うんって言ったら、じゃあゲイなんだって。言ってキスしてきた。」
ゲイ?女好きで俺とキャバ梯子する男がゲイ?そんなわけ有るはずがない。
だけど、俺だけは愛してくれた。俺も堕威だけ。ほかの男なんていらない。じゃあ俺たちのセクシャリティっていったい何?
「だからさ、違うって言った。ほっぺた殴ってやった。そしたら”何が違う!?”って。”浮気の一つくらい、世のゲイは誰でもする!”って。そんな根も葉もない様な事言われた。」
本当に、根も葉もない。
「それに、俺が…そんな軽い気持ちで薫くんとつきあってる様に見えてたってのが、嫌やったん。やから口論になった」
堕威がそれを言った時、ぐるぐると俺の中を渦巻いていたものが、いきなりスポーンと抜け落ちた。
あれ、俺は何を思い悩んでた?何故さっきまでこれほど簡単な話が理解できていなかった?
「おれ、薫くんやから付き合ってるんに。他の男となんて虫酸が走るわ!薫くんだけやのに!」
堕威は興奮して声を荒げる、瞳には涙が並々と、今にも溢れんばかり。
「堕威…俺もやで。俺もお前やないと。男となんて付き合いたいと思わん。お前だからこそ愛しあえるねん」
俺はさっきまで心の中で動揺してたことを隠し、堕威に告げる。
何か、一世一代のプロポーズみたいや。
堕威はポッと顔を赤くしている。かわいいことこのうえない。
堕威の体を奪いたい。
ふいに湧く欲求。
しかし今日は駄目。ホテルじゃないから。
だから大人しく堕威を撫でてやることしかできない。
あまり接触すると理性がきかなくなる。
「ありがとな。堕威。大切に付き合ってくれて」
俺がそう言うと、堕威はそっぽを向いてしまった。
しかし、ふいにこちらを向いた。
「薫、消毒して」
目を瞑り、少々唇を突き出してくる。
あぁ、こいつは俺の理性を引きちぎる気なのだろうか。
その甘えの何と心地の良いことか。
俺はそんな可愛いおねだりをする、堕威への欲望をひたすら押さえ込みつつ、彼にフレンチキスを落とした。
堕威がそれにくすぐったそうに応える。
軽いキスを何度も繰り返す。そして幾度めかでそっと唇をはずした。
「もう…寝ようや」
そう言って堕威の頭をくしゃるとしてやる。
すると堕威は小さく頷き、すくっと立ち上がった。
使用したお茶とコップを二人でキッチンへと片づけに。
その間も、触れる様なキスをしあう。
そのままベッドへと帰り、一緒に寝たいという堕威の要望に応え、狭い室内でぎゅうぎゅうになりながら、お互い抱きしめあって寝た。
***
翌朝、堕威はやつに謝った。
俺的には、謝らなくても良い。
むしろ絶交したままの方が良いが、堕威が殴った事を謝りたいと言っていたのだから仕方がない。
俺は新しいタバコを取り出し、銜えた。
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10月29日(日)
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