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マシンガン★リーク
by 六実
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■つめこみ
と言うわけで、そこからはいつも通りの遊びとなった。二人でDSで対戦しているうちに、なんだかどうでもよくなってきた。目の前の大真はいつもの大真だし。と思いきや
「大真くん?そろそろお家にお電話しておいてね、今日ごはん食べていくでしょ?」
夕方になってお母さんが言った。何言ってるんだ?お前帰れよという前に、大真のカマでツマなスイッチが入った。
「やだ、おかあさま申し訳ありません。もう本当に至らない嫁で……」
「いいのよー、二人で仲良くしてくれれば」
「もうそれはご心配なく、おはようからおやすみまで仲良しでっす!ねー、アナター」
抱きつくな!そんな僕らをお母さんはにこにこと見つめている。いいのお母さん?息子の嫁がこんなんで!しかし、その顔には「おもしろくてしょうがないわこの子」と書いてあった。……知っている、うちのお母さんは大真を気に入っているんだ。
そうこうしているうちに夕飯時になって、お父さんも帰ってくる。この状況をどう説明しようかと考えていた。いや、大真がうちでごはんを食べて行くことなんてしょっちゅうなんだけれど(大真のうちはお父さんもお母さんも働いているから、お母さんが頻繁に大真をごはんに誘っている)、このカマキャラ大真をどう説明すれば……説明するんじゃなくて、もう逃げ出したくなってきた。
しかし大真はそんな僕の苦悩なんかそっちのけで、カマでツマを演じている。
「あ、お父様がかえっていらしたわ、おとうさまおかえりなさいませー!」
玄関で三つ指ついた大真。僕が追いかけていって慌てて説明しようとすると
「いやあ、ゆかりはいい奥さんをもらって幸せだな!」
「やだー、もー、どんだけー」
……お父さんまで悪ノリだ。うん知っている、お父さんも大真の事を気に入っているんだ。
かくして、お父さんとお母さんと僕、そして大真の四人で僕の誕生パーティとなった。みんな僕の好きなものばかり、ケーキとプレゼントのある誕生日。去年と同じ誕生日、になるはずだったのに
「それてゆかりってばね」
大真がひっきりなしに話をして場を盛り上げている。これもいつもと同じ大真がごはんを食べていくときの光景だ。
去年と違うようで、でもいつもと同じようで。
ケーキのろうそくを吹き消すと、大真はパチパチパチと拍手をした。去年と違う誕生日、けれどもいつもと同じに大真がそこにいる。でもこの大真はいつもと違う。なんか変な感じ。
夕食後、お母さんが柿を剥いてくれた。僕はさっそくお父さんからプレゼントでもらったスニーカーに紐を通していたら、大真が隣でそれを僕に食べさせてくれた。昼にもあったな、この光景。
「はい、アナタ、あーん」
「あーん」
つられてしまった。
「おいしい?」
「………………うん」
単に、反論するのはつかれてしまうから。けれどもそこに大真がいることに何の違和感もなくて、去年とちがう誕生日なのに、ずっとそこにいたような気がして。
大真はいつものタレ目でにこにこしているし。
「じゃ、アタシにも、あーん」
最後の一個を僕に持たせて、自分は馬鹿みたいに大きな口を開けた。なんだか、もうおかしくてしょうがなくなってきた。けれども僕はその恨みはわすれていないから
大真の口元に柿をもっていって、直前で自分の口に放り込んだ。大真の歯がガチンと音を立てた。
とりあえずようやく仕返できて気が済んだ。僕はそんな大真に笑ってやったら、大真も笑った。
お母さんに言われて、帰る大真を大通りまで見送る。つい先日木枯らし一号が吹いて、もうすっかり冬だった。そしてようやく営業終了と言って元に戻った大真が聞いてきた。
「ねえ、楽しかった?」
「全然」
「えー、ゆかりの誕生日プレゼント代わりだったのにー、一生懸命いいふうふを演じたのにー」
でも僕は知っている、大真はこの間マックのハッピーセットのポケモン全部揃えるんで、今月のお小遣いを使っちゃたんだ。だからこれがプレゼントだと言い張る。
「でもさ、ゆかり」
「なんだよ」
「お前はいいふうふの日に生まれたんだよな」
「もうそれはいいよ」
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11月22日(木)
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