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マシンガン★リーク
by 六実
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■にゃーとリアルに鳴いている
 仕方なく、僕は長年の疑問と父の恥を晒した。閣下、うちの父はあまりにも失礼です、閣下にその……そんな閣下に結婚しろだの、子供はいいぞだの、家庭が一番だだの、閣下、父の非礼は僕が詫びます。
 閣下は一瞬きょとんとしていた。そして大きな口をあけて笑い出した。
「閣下、」
「いや、なに。君がそんな事を気にしているとは思いも寄らなかったのでね」
 こらえきれないとばかりに閣下は笑う。こんな風に笑う閣下は初めてみた。
「いや、失礼……君の気持ちはありがたくいただくけれど、それはまったくもって杞憂だよ」
「でも」
「少なくとも私は気にしていないよ。それにね、私はニールが、君の父上がそう問いかけてくれることに感謝をしているんだ」
「感謝」
「……ニールはね、そう言って私に投げかけてくれているのだよ。『それでいいのか』『それでいいんだな』」
「……」
「『それで、いいな』」
 閣下はまた目を細めた。何かを思い出したようだった。そして
「今夜、空いているかね?」
 話の続きはその時に、と閣下は言った。君に話しておこう、このままニールが「英国紳士の風上にもおけない」と君に言われるようではかわいそうだ、と。
 僕が訳のわからない顔をしていると、閣下は笑った。
「なに、年寄りの思い出話につきあってもらうだけさ」


 その日、母は朝早くから出かけていった。朝露に濡れて戻ってきた母の手には、通りの花屋で買ってきたアマリリスの花束があった。すぐに持ち出せるように、と玄関の脇の花瓶に包み紙のままさしこまれた。
 父が夕べ僕に言った。明日は『ウィリアムおじさん』を我が家の食事に招待するから、と。
 その日はとても晴れた気持ちのよい日だった。閣下のお供をしていつもと同じ『散歩』をする。いつもと同じ場所を通って、そして最後にちいさな広場につく。
「……」
 遠くにあると思った劇場が意外に近いのか、何か音楽が聞こえてきていた。午後の陽だまりのなか、閣下はいつもの空間と瞬間に身をひたす。その日、僕はいつにもましてそんな閣下に近づけなかった。
 コーラ・パール、そしてエンマ・クラッチ。
 この場所が、いや全ての場所が閣下にとっては、かの人が在ったところであり、今もまた在るところなのだと、それを僕はもうしっていたから。
―ニールがあの時『それでいいな』と言ってくれなければ、私はあの時あの場所から動けなかったのだよ。そして今も『それでいいな』と言ってくれるから、私は……
 ここにいるのだと、ずっとずっとここにいるのだと。
 午後の陽だまりのなか、僕は何故か涙が溢れてきた。
 ふと、隣を誰かが通り過ぎた。父だった。
 父は閣下に近づき、けれども近づきすぎずに、じっと閣下を見守っていた。閣下がそれに気付くと、父は一歩足を進めた。閣下が笑うと、父も笑い、閣下の肩を抱いた。二人がどんな言葉を交わしたかは、僕には聞こえなかった。
「前に聞いたわね、おとうさまのあれは失礼なんじゃないかって」
 僕の隣に、母もきていた。
「そうね、失礼かもしれないわね。おとうさまじゃなければ」
 僕はうなずいた。僕はしらないことばかりで、きっと今もすべてをしっているわけではない。けれども、それだけはもうちゃんと「しって」いるのだから。
「シンシア、」
 父が母を呼んだ。
「やあ、久しぶり」
 閣下が母に笑いかけた。
 母は閣下に手にしていたアマリリスの花束を渡した。
「おい、ウィリアム。今夜は時間に遅れるなよ?せっかくお前をわざわざ我が家に招待してやるんだからな」
 父が言った。
「ああ、わかっているさ」
 そして閣下は白い花束を手に、向かった。見送る僕らに、閣下は振り返り手を振った。 閣下は笑顔なのに、見送る父は泣いていた。
僕は父を抱きしめた。



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 ……気が済んだ(笑)。
 予告通りのトーマス君視点。そのいちが前振りだったわけです。フェットアンペリアルをみて、最初に思いついたのがこれなんです。うわもうしょっぱなからイレギュラーすぎる……ッ。

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07月12日(水)
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