ID:22831
『日々の映像』
by 石田ふたみ
[256520hit]

■国家の財政破綻を回避するには
 この国の経済と社会を立て直すために、政治は何をすべきか。菅直人新首相と新政権に突きつけられているのは、そのことである。
 経済は長きにわたり停滞を続けている。デフレ下で財政赤字は危機的水準に達した。人口減と超高齢化が進み、成長への期待はしぼんでいる。
 未来に夢と希望をもてる社会を取り戻さなくてはならない。そのために必要なのは、甘い幻想や空疎なスローガンではない。厳しい現実に立脚した、勇気ある政策の断行だ。
■不人気から逃げるな
 そして、この国のリーダーに求められているのはそれを成し遂げる覚悟とビジョン、改革の意思を国民にしっかりと共有してもらうことだ。
 菅氏も、みずからに課されたその使命を理解しているように思われる。「強い経済、強い財政、強い社会保障」。それを一体的に実現する、と何度も訴えた。
 昨年の政権交代に託された民意についても、「経済の低迷などの閉塞(へいそく)感を打ち破ってほしいという思い」だと、新首相としての初会見で述べた。
 重い課題を達成するのに必要なことが二つある。第一に、財政と社会保障の基盤の立て直し。第二には経済の構造を変革し、新しい産業と雇用を生み出す成長戦略を描くことだ。
 国民の負担増は避けられない。世界で例のない超高齢化によって、すさまじいペースで膨らみ続ける社会保障費をまかなうには、国民にも痛みが求められる。裏付けとなる財源の手当てをしなければ、制度自体が維持できなくなってしまうからだ。
 ところが自公政権の時代から、政治は不人気政策から逃げてきた。「4年間は消費税を上げない」とした鳩山政権もそうだ。その結果、政府の借金は毎年40兆〜50兆円ずつ積み上がる。
 
■参院選で消費税問え
 この借金漬け財政はいつまでもつのか。年金や医療の未来は大丈夫か。ギリシャの財政赤字に端を発したユーロ危機が世界を揺さぶるのを目の当たりにして、不安を抱く国民が増えているのはむしろ当然だろう。
 不安は消費意欲をなえさせ、停滞の要因ともなっている。とはいえ、財源確保のために増税すれば景気を失速させかねない。歴代政権が苦しんだのもそのジレンマだった。
 ところが菅氏は4月、旧来の常識を破り「増税しても使い道を間違えなければ景気は良くなる」と、消費税増税に前向きな発言をした。財務相に就いた半年前には「逆立ちしても鼻血も出ないほど無駄をなくしてから議論する」と言った菅氏の豹変(ひょうへん)だった。
 この転換は、責任ある国家運営に乗り出そうという意欲の表れだ。ひとつのきっかけは2月の主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)だったようだ。欧米の当局者から直接、日本経済への厳しい見方を聞かされたことが強烈な体験となったに違いない。
 菅氏はその後、財政健全化法の制定や、来年度予算での新規国債発行枠の設定にも積極的に動いた。
 先進国で最悪の借金体質にある日本の財政にユーロ危機で国際的な関心が向けられた。子ども手当をはじめ政権公約の財源について、民主党は事業仕分けで捻出(ねんしゅつ)できると説明してきた。現実はそう甘くはなかった。
 逆に、増税先送りでは済まないことが浮き彫りになった。それが、菅氏豹変の背景にはある。
 菅氏は橋本龍太郎氏以来、久々の財務相(蔵相)を経た宰相となる。橋本政権は21年間の消費税の歴史で唯一、税率引き上げを実施した。菅氏の課題もまた、先進国で最低水準の租税負担率を引き上げることだ。これは歴史の巡り合わせかもしれない。
 夏の参院選に向けて自民党は、消費税を現行の5%から当面10%に引き上げることを政権公約に盛り込む方針を打ち出した。熱い論争を期待する。
 新たな国民負担を求めて納税者を説得するには、その財源を使う政策の優先順位の明確化、与党の結束といった政権の強い統治能力が不可欠だ。
■険しいが「第三の道」
 資源もエネルギーも乏しい日本の国民が稼ぎ食べていくには、経済競争力の回復が欠かせない。そのために新政権は手を尽くさねばならない。

[5]続きを読む

06月08日(火)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る