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『日々の映像』
by 石田ふたみ
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■報道は管内閣一色
 バブル経済が崩壊してすでに20年近く。果実の配分から負担という「痛み」の配分に、政治の役割が移ったと言われて久しい。当否はともあれ、「小泉改革」が試みられもした。
 しかし、長く続いた古い政治モデルの惰性は強い。昨年の総選挙での民主党の政権公約(マニフェスト)には、その名残が色濃く残った。その後の小沢一郎・前幹事長主導の政策遂行は、あからさまな選挙至上主義と大衆迎合の罠(わな)にはまった格好だった。
 新たな時代の政治とは、「選択と説得」の政治というべきものである。
 財源が細るなか、「あれもこれも」ではなく、「あれかこれか」を選び、重点投資する。足りない分は負担を求める。負担増となる人々にはその理由を説明し、納得を得る努力を重ねる。
 経済財政、社会保障だけではない。「国外・県外か県内か」をめぐり迷走した米海兵隊普天間飛行場の移設問題は、まさに政治指導者の選択と説得を対米外交と国内調整に動員することなしには解決のおぼつかない難題だ。
 鳩山由紀夫前首相は辞意表明にあたり、「米国に依存し続ける安全保障」に疑義を呈し、「日本人自身が作り上げる日本の平和」の必要性を訴えた。持論だったのだろう。だが、いかんせん遠大な問題意識と眼前の政策構想力、実行力との落差が大きすぎた。
 政治家にとって選択と説得は、苦しく厳しい作業になる。人気取りに逃げ込めれば、よほど楽である。しかし、もはや時代は待ってくれない。
■公約の見直し率直に
 今回の組閣や党役員人事で求められたのは、新たな政治の厳しい試練に耐えうる布陣である。
 菅首相は官房長官や、党の幹事長、政調会長といった中枢に、マニフェストの見直しに前向きで、説明能力も高い顔ぶれを据えた。この人たちの力量が本物なのか。与党内の異論を抑え、政治モデルを切り替えることができるかが、勝負になるだろう。
 マニフェスト見直しは死活的に重要だ。歳出削減だけで財源を捻出(ねんしゅつ)できないのはこの9カ月弱ではっきりした。財政負担の大きい施策を見直し、優先順位をつける。約束通りできないことを有権者に率直に謝罪し、これからどうするか説明し、参院選で信を問う。それで信認を得られれば、政策は格段に遂行しやすくなる。
 子ども手当は、当面は満額支給を見送るとはっきり書くべきだろう。財源がないのに満額にこだわり、保育所の整備などが遅れてはならない。
 とりわけ重要なのは消費税だ。自民党は、当面10%に引き上げることを公約に盛り込む方針だ。民主党も本気で取り組むのなら、手をこまぬいているわけにはいくまい。この点の書きぶりを全国民が注視するはずである。
 有権者に負担を求める政策では2大政党が話し合い、接点を探ることがあっていい。自民党がかじを切ったいまが実現の道筋をつける好機といえる。
■対話の新たな流儀を
 「選択と説得」の政治を定着させるには、国会での意思決定について新たな手法を開発し、与野党がそれに習熟していくことが不可欠である。
 政権交代が現実的でなかった55年体制では与野党が表面では対立しつつ水面下の取引で妥協も図られた。政治改革を経て民主党が成長すると、政権交代を賭けた与野党関係は先鋭化する。しかし、対立のための対立は不毛だ。
 必要なことは、対決すべき争点と話し合える争点を仕分けることである。後者では、与野党が水面下でなく公式の場で議論を重ね、歩み寄りを図る。それは憲法改正国民投票法をめぐる与野党協議などで兆しの見えた対話の流儀であり、決して夢物語ではない。
 こんな意味での「選択と説得」の政治は、連立か対決かという極端な二者択一の緊張も緩和するだろう。大政党が小政党に振り回され、政策決定が迷走する事態も減るに違いない。

06月10日(木)
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