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『日々の映像』
by 石田ふたみ
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■国家の財政破綻を回避するには
「脱官僚」の政治主導が機能しなかった総括も必要だ。政治家と官僚の役割分担を整理し、意思決定をスムーズに行う仕組みを再構築すべきであり、菅氏が会見で官邸体制の再構築に言及したのは理解できる。鳩山内閣では首相が政務、小沢氏が党務を分担する仕組みが機能せず混乱した。政権交代と同時に廃止された党政調を復活させることも賛成だ。
◇責任ある公約示せ
内外の政策課題でまず直面するのが政権崩壊の要因となった沖縄・普天間飛行場の移設問題である。菅氏は辺野古沖に移設する日米合意を踏襲し、沖縄の基地負担軽減に取り組む姿勢を示した。だが、沖縄県や名護市の同意が得られるめどは立っていない。その一方で、8月末に工法など具体案の策定を迫られる。
仮に調整に失敗すれば普天間飛行場の固定化という最悪のシナリオを招きかねない。当面の危険除去の検討を急ぐことはもちろん、首相自ら早期に沖縄に行き、失われた信頼関係の構築を急がねばならない。
財政も危機的状況にある。菅氏はこれまで消費増税積極論者だったが鳩山前首相の「消費税4年据え置き」との方針を果たして見直すのか。指針を示さなければ、責任ある政治とは言えまい。
その意味で、重要なのが参院選で有権者に示す党の公約だ。さきの衆院選で掲げたマニフェストはバラマキ型の内容ですでに財源の骨格が破綻(はたん)している。誤りは率直に国民に謝罪したうえで、実現可能なプランを示さねばならない。
参院選は本来、鳩山内閣の中間評価の場となるべきだった。菅氏が小沢氏と距離を置けばその分、9月に任期満了を迎える代表選のハードルは高くなる。参院選である程度の結果を示せなければ政権運営が立ち行かなくなる事態も十分にあり得る。そうなれば民主党の政権担当能力が今度こそ問われる。
一方で、自民党など野党も戦略の練り直しを迫られる。逆風が吹く鳩山内閣の下での参院選突入を本音では期待していた向きもあった。だが首相交代を受け、単純な与党批判から一歩踏み込んだ政策論争が選挙戦で求められよう。
鳩山前内閣の混乱と挫折を決して無駄にせず、教訓として生かすべきだ。それは、与野党が共通して国民に負う責務である。
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余録:新首相のリアリズム
2010年6月6日 毎日
「政治家は嫌われてもいいが、なめられたら終わりだ」−−おとといに続いてまたもマキアベリの「君主論」の引用かと、あきれないでいただきたい。これは第94代首相に選出された菅直人氏が周囲の人々にもらしていた言葉だという▲「君主は愛されるより恐れられる方がはるかに安全だ」「君主が厳に戒めるべきは、人にさげすまれることと、恨みを買うことだ」。こちらは本物の「君主論」だ。新首相はマキアベリに権力のリアリズムを学んだらしい▲元市民運動家からイメージされる理想主義より、むしろ「マキアベリスト」「プラグマチスト(実用主義者)」との評が聞かれる新首相だ。常ならば権謀術数を連想してまゆをひそめる方もいようが、今はむしろ頼もしく聞こえるのは前政権の失態を見たからだろう▲いや前政権ばかりではない。ここ何代か政治家の2世、3世の首相のひ弱なリーダーシップと、その惨たんたる首尾を見せられてきた国民である。久しぶりに迎えた「たたき上げ」の首相に、袋小路に入り込んだ政治を打開する力業を期待したくなるのは成り行きだ▲国政選挙の落選3回、党代表選では4度敗北を喫し、代表としての挫折も2度くぐり抜けた新首相だ。「七転び八起き」そのまま8度目の代表選びに臨んで極めた国政の頂点とあれば、もう怖いものはなかろう。まずは党と内閣の人事でその腕力を示さねばならない▲こと「愛されるよりも恐れられろ」というマキアベリズムでは年季の入った与党内勢力を抱える政権運営となる。ここはタフなファイターとして政治を率いる首相というものを久々に見てみたいものだ。
社説:菅新政権へ―財政再建が歴史的使命
2010年6月6日 朝日新聞
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06月08日(火)
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