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『日々の映像』
by 石田ふたみ
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■ネット上の名誉棄損や中傷、警察への相談1万件超す 
 警察庁によると、ネット上の名誉棄損や中傷の相談は、07年は過去最多の8871件で03年の3・4倍。08年上半期は前年同期比1280件増の5482件に上る。検挙も増加傾向で、名誉棄損は07年は79件(前年比26件増)、脅迫は59件(同18件増)。ただし、トラブルは個人間が中心で不特定多数による攻撃の摘発は異例だ。匿名であっても書き込み主の特定は可能で、今回は凶暴化するネット暴力に歯止めをかける狙いもあるとみられる。
 一方で、ネット世界の中傷被害は表現の自由の問題と絡み、刑事責任追及には難しい側面もはらむ。そのため警察庁は「すべてを取り締まるたぐいの犯罪ではなく、適切に判断する」と慎重な姿勢も見せる。
 ◇広がり続ける誤った情報 個人の表現にも重い責任
 「ほかの人のインターネットの書き込みを信用した」。中野署が脅迫や名誉棄損の容疑で摘発する川崎市の会社員の女(29)らは、調べに対し、スマイリーキクチさんが女子高校生コンクリート詰め殺人事件の「犯人」だと決めつけた理由についてそう答えたという。
 本人が否定しているにもかかわらず、当時の事件関係者に確認をするなど十分な裏付けをしないまま真実だと信じて書き込んだ。ネット上の誤った情報がさらに別の人によって広められるという「誤情報の再生産」は、何の落ち度もないキクチさんを深く傷付けた。こうした被害は後を絶たない。
 一方、憲法が保障する表現の自由は当然、ネットにも及ぶ。ラーメン店を展開する東京都内の企業が宗教団体と関係があるかのような内容を自分のホームページに書き込んだ男性会社員(37)が名誉棄損罪に問われた事件で東京地裁は昨年2月、男性に無罪を言い渡した。個人によるネット上の情報については「信頼性は低い」とし、被害者側による反論が可能であることなども考慮した。最高裁が示した「誤信したことに相当の理由があるときは成立しない」という名誉棄損罪の基準を緩く解釈し、表現の自由に配慮したものとも受け取られた。
 しかし、東京高裁は今年1月に「基準緩和は賛同できない」と1審判決を破棄し、罰金30万円の有罪判決を出した。名誉棄損を巡っては従来、報道機関による表現を中心に論じられてきたが高裁判決は、誰もが容易に不特定多数への情報発信が可能な時代にあって、その大きな影響力と、ネットでの個人による表現行為が今後も拡大することを重視したわけだ。
 ネット情報の信頼度向上をどう図るかは情報化社会の大きな課題だ。今回の摘発は、表現の自由の担い手である一人一人の個人に対してもその重さを突きつけたと言える。
 ◇「バレにくい」は誤解−−評論家・荻上チキさん
 メディア論に詳しく「ウェブ炎上」などの著書がある評論家の荻上チキさんに聞いた。
 今回の立件には「ネットは完全匿名の空間ではない。ネットは現実と地続きであり、現実社会でやってはいけないことはネットでもいけないし、処罰され得る」という社会啓発の狙いがあったのではないか。事件を知り、子供に「ネットに人の悪口を書いたら警察につかまるよ」と話している親も多いだろう。
 「炎上」はネット上の現象を指すが「ネットは匿名性が高いので、炎上現象が起きる」という考えは少し違う。炎上は、リアル社会のいじめやリンチと同じ。特定の個人を集団でたたく、攻撃するという行動がひとたび始まると、ネットであれ現実であれ先鋭化し、一線を越えてしまうことが多々ある。その場のノリに支配され、客観的な視点が失われてしまい、その攻撃の前提となっている情報が本当かどうかも検証されず、止まらなくなる。
 ただ、現実社会で口コミで人を中傷するのと、ネットの書き込みでするのとでは、ネットの方が強い責任を要求されると思った方が賢明だ。口コミは瞬間的に消えるが、書き込みは残る。誰が見て何を感じるか分からないし、プロバイダーを通して発話者の特定も可能だ。
 道端で人をののしり走り去っていった人を特定するのと、ネットに書き込んだ人を特定するのでは、後者の方がずっと容易だと言える。しかしネットなら現実よりもバレにくいと多くの人が誤解している。今回書類送検された人たちも、まさか自分が特定されるとは思っていなかったのではないか。

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03月02日(月)
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