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『日々の映像』
by 石田ふたみ
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■ 疲弊する医療現場
もちろん、すべての患者の手術日程を変えられるわけがない。また、年明け後なら新たに手術日が組めるが、それでは患者の体が心配だ。産科医が改めて「つまり、手術日を変えるのは不可能ということです」とはっきり告げると、「それなら別の病院で手術するからいいです」と、電話をたたききられた。
この患者は他の病院を数カ所あたったものの、手術を引き受けてくれる病院がなかったことから、結局、この産科医のいる病院で当初決めた日程で手術を行った。
産科医はいう。
「結果としては無事手術できてよかったのですが、診察や治療以外の対応にこちらはへとへとです。産科医不足がいわれ、実際にみなぎりぎりの状態で仕事をしているのに、わがままな患者に振り回されると、もうやってられないという感じです」
◆ ◇ ◆
都内の別の病院に勤務する産科医(35)も、患者の理不尽な要求にとまどっている。
1月半ばのことだ。切迫早産で入院していた40代後半の妊婦から、「外出を許可してほしい」と呼び出された。輸入品を扱う店を経営しており、店のことが気になって外出したいのだという。
この患者は、長年の不妊治療の末にようやく初めての子供を妊娠したのだ。このときは38週で、絶対安静が必要な状態だった。産科医が「子供の命のために、もう少しだけがまんしてください」と説明しても、「私の体のことは私が一番よく分かっている」と、がんとして聞かない。患者の夫に説得してもらおうと「今が一番大事な時期ですから」と説明したが、夫も「妻の言うとおりにしてあげてください」と言うだけ。
外出されると治療に対する責任がもてなくなることから、「外出したいなら自己退院してもらうしかありません。その代わり、もううちでは診察できません」と告げると、「退院するつもりはない」と言い張り、日中に勝手に外出し、夕方戻ってくるという生活を続けた。
「子供が本当にほしいから不妊治療をしていたのではないのでしょうか。生まれてくる子供のために、数週間仕事を休むことが、そんなに難しいのでしょうか」と産科医は頭を抱える。命と仕事の重さの違いすら、分からなくなっているのだ。
◆ ◇ ◆
「看護師に添い寝を強要する」「大部屋で同室の人の迷惑になる行為を平気でする」「治療のために絶飲食にするよう説明しても『おれは食べたいものを食べる。おれは客でおまえらはサービス業だから、客のいうことを聞け』と従わない」−医療現場で患者が身勝手な要求を通そうとする光景は、もはや日常茶飯事と化している。
医療関係者によると、こうした困った患者は平成12年ごろから増え始めたという。医療事故が大きくニュースで扱われ、医療不信が高まるとともに、患者の権利が強くいわれるようになり、病院が患者を「患者さま」と呼ぶようになった時期と重なる。
もちろん医師や病院側に問題があるケースもあるだろう。しかし、最低限のルール、常識的なマナーを守れない患者の増加により、医師が疲弊し、病院から立ち去る原因のひとつとなっている。実際、全国の病院で医師不足が深刻になっているのだ。
◆ ◇ ◆
とくに疲弊が顕著なのは、自治体病院だ。大学医局が医師のひきあげを行ったことも影響し、残された医師はぎりぎりの状態での仕事を余儀なくされている。
月に150時間を超える残業をこなす中、「よくならないのはおまえのせいだ」「税金払ってるんだから、もっとちゃんとみろ」など、患者からの理不尽なクレームが容赦なく寄せられる。
病院が患者の問題行動に毅然と対応できないことも多く、また一部の議員がこうした患者の言い分を鵜呑みにして医師や病院に圧力をかけてくることもあるといい、医師の退職に拍車をかけている。
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02月28日(木)
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