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『日々の映像』
by 石田ふたみ
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■自殺者、12年連続3万人超える。
 NPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」(東京都千代田区)が自殺者の遺族を対象に実施する「自殺実態1000人調査」では、若年層が死に追い込まれる実態や遺族の苦悩が浮かぶ。

 愛知県に住む元会社員の30代男性が自ら死を選んだのは昨年秋。母親はその8カ月前、IT(情報技術)関連会社を辞めて実家に戻った際の息子のことを鮮明に覚えている。ほおがやせこけ、疲れ果てた様子だった。職探しはうまくいかず、会社の設立にも失敗。明るく振る舞っていたが、遺書には何カ月も前から自殺を考えていたと記されていた。

 母親は「家族の誰かが後を追うのでは。そんな恐怖におびえながら生きてきた。家族を自殺で失うなんて思わなかった。だからこそ、一人一人が身近な問題として自殺を考えてほしい」と訴える。

 NPO法人「労働相談センター」(葛飾区)には、年間5000件規模の相談が電話やメールで寄せられる。最も多い相談は賃金関係だったが、景気が後退した08年秋以降はずっと解雇がトップだ。

 スタッフの須田光照さんは、相談を受けた30代男性を気にかける。自動車メーカーの下請け会社を解雇された後、仕事が見つからず、うつ病と診断されてから連絡がつきにくくなった。「精神的な打撃を受けやすい人にとっては、解雇が重大なつまずきになるケースが少なくない。若い人にとって、自殺との距離は近くなってきている」と感じている。

 ライフリンクの清水康之代表は「自殺は主に中高年の問題だと言われてきたが、20、30代にも広がっている。経済問題が原因になるケースが目立つが、失業だけではない。過酷な労働条件にさらされている人が追いつめられている実態もある」と分析する。

 過労死の問題に詳しい川人博弁護士は「入社1〜2年の若者の自殺が増えている」と実感するという。40〜50代の社員がリストラで減り、以前より若い層が職場で責任を負うようになった。過酷な負担やノルマが、新入社員にものしかかる。「若い社員を取り巻く環境が変わり、ストレスはますます強まっているのに、サポート体制は弱い。そこに問題の一端がある」。川人弁護士は警鐘を鳴らす。

 警察庁の09年の自殺統計で、原因・動機を7区分に分類すると、「経済・生活問題」を含む人は8377人で08年より13・1%増加し、最も増加率が高かった。さらに多かったのが「健康問題」。1万5867人と最も多く、このうち「うつ病の影響・悩み」を含む人が6949人に上った。他の区分は▽家庭問題4117人▽勤務問題2528人▽男女問題1121人、など。

 日本いのちの電話連盟が毎月10日に実施する「自殺予防いのちの電話」には09年、自殺志向者からの相談が9731件あった。原因はさまざまだが、相談者の8割前後は精神科などで治療を受けたことがある人だという。

 連盟の斎藤友紀雄常務理事は「医療につながっていながら、『死にたい気持ち』へのケアが受けられていない実態がある」と分析。「生活不安を訴える若年層は多いが、それだけが自殺の理由ではない。自殺を志向する人へのケアのシステムをつくることが理想だ」と訴える。

 ◇予防効果、見極め難しく
 98年の統計で自殺者が3万人を超えたことをきっかけに、国は対策に乗り出した。厚生省(現厚生労働省)は00年に策定した「健康日本21」で、自殺予防への取り組みを初めて掲げた。06年施行の自殺対策基本法には、自殺を「個人の問題」のみとせず、「社会的な要因」に目を向けて対策を講じるべきだという内容が盛り込まれた。同法に基づいて政府が策定した「自殺総合対策大綱」が、現在の国の対策の指針となっている。
 09年には地域自殺対策緊急強化基金を予算化。市町村や民間団体による相談事業や支援者の養成、啓発活動などに補助金を出す制度で、3年間で計100億円を計上する。今年2月には「いのちを守る自殺対策緊急プラン」を打ち出した。

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05月15日(土)
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