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『日々の映像』
by 石田ふたみ
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■ 避けられない生活保護の利用者が増加
 家の中は散らかり、割れたガラスが床に落ちたまま。2人の弟のために、パンや菓子の万引きを繰り返す。母親は病弱。父親は定職に就かず、酒を飲んで家出ばかり。小学校高学年になって児童養護施設に入るまでは、ほとんど学校に通うこともできなかった――。
 民間団体で働く関東地方の20歳代の女性は、「自分はみんなとは違うんだと思った。これは偽の人生だと思い込もうとしていた」と幼少時代を振り返る。
 子供が貧困に陥るのは、親が働いていないか、働いていても収入が低いことなどが考えられる。
 30年間、福祉事務所で働く自治体職員は、「非正規雇用が増え、不安定な親の生活の影響を受ける子供が増えてきた」と感じている。そうした子供たちは、衛生的な生活環境や、早寝早起きなどの生活習慣を得られず、頼れる親類もいないことが多い。
 「そもそも、人生のスタートラインに立てていない」とこの職員は解説する。
 戦後の貧しかった時代を経て、高度経済成長を成し遂げた日本では、「貧困」の明確な基準がなく、統計もない。だが、OECDの調査(2000年)によると、日本の子供の貧困率は14・3%と、平均より2・2ポイント高い。10年前と比べ、2・3ポイント増となっている。

教育への影響大きく学歴にも影響
生活保護受給世帯の中学生らに勉強を教える徳沢さん。「かけ算や九九のできない子もいる」と話す(東京都江戸川区内で)
 もちろん、家庭の成育環境が子供の人生のすべてを決めるわけではないが、様々な調査からは、その影響の強さがうかがえる。
 その一つが、学歴との関係だ。大阪市が04年3月にまとめた「大阪市ひとり親家庭等実態調査報告書」によると、希望する子供の最終学歴を「大学」とした割合は、年収600万円以上の世帯では半数以上だったが、同200万円未満の場合は25%を切った。約20年前から有志で、生活保護家庭の子供に無料で勉強を教えている東京都江戸川区の職員、徳沢健さんは、「家の事情や親の学歴を考えて、自ら進学をあきらめる子も多い」と指摘する。
 虐待との関連性を指摘する調査もある。厚生労働省が昨年6月にまとめたデータによると、05年に起きた児童虐待による死亡51例のうち、約4割が市町村民税非課税世帯など経済的に困難な家庭の子供だった。
 犯罪との関連性を示唆するデータもある。北海道大学の岩田美香准教授(教育福祉)が国の調査結果をもとに、1980年から06年に全国の少年院に入所した子供の家庭状況を調べたところ、その2〜3割が貧困家庭だった。
貧困の固定化
 健康面への影響も懸念される。横浜市社会保障推進協議会が昨年2月末、市からデータを得たところ、国民健康保険料の滞納により、受診抑制が懸念される世帯の子供は約3700人に上った。「家庭環境で治療を受けられない子供がいる」と、同会では警鐘を鳴らす。
 さらに気になるデータがある。06年4月に、大阪府堺市健康福祉局の道中隆理事が、市内の生活保護受給390世帯を無作為抽出して調べた結果、その25%は世帯主が育った家庭もやはり生活保護世帯で、その割合は母子世帯では40%に上った。「『貧困の固定化』がうかがえる。まずはこうした負の連鎖を断ち切り、親子が自立できる政策が必要」と道中理事は強調する。
一元的に把握
 では、どうしたらいいか。
 「国はまず、貧困状態にある子供の実態をきちんと把握すべきだ」と、放送大学の宮本みち子教授(社会学)は訴える。そのためには、医療、福祉、教育、雇用など、関係機関が個別に所有する子供の情報を一元的に把握し、共有できるシステムを作ることが不可欠だと提唱する。
 また、最低賃金を引き上げて働く親の所得水準を上げるほか、生活が厳しくなりがちな一人親家庭への支援を充実すること、さらに、子供の授業料の減免措置や奨学金の拡充なども提案する。
 一方、国立社会保障・人口問題研究所の阿部彩・国際関係部第2室長(社会政策)は、「日本では、低所得者向けの現金給付や税制上の控除が不十分な半面、税負担や社会保険料負担が重い。このため、生活保護や児童手当などを受けても、現実には貧困の救済になっていない」と指摘する。

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10月09日(木)
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