ID:19318
13匹目のバナナフィッシュ
by サキ
[35041hit]
■【版権】【ボカロ】ロミオとシンデレラ【R15】
ようくお聞きよシンデレラ。十二時までに帰ってくるのよ。そうでないと魔法が切れる。おまえはただの灰かぶりに戻ってしまう。ようくお聞きよシンデレラ。おまえの望む幸せはなんだえ? 今一度戻る何不自由のない生活。打算的な子だねおまえは。いいのよ。それで。女の子はそうでなくちゃね。だったら婆の言うことを守るのよ。いいね、十二時の鐘が鳴る前におまえを抱く腕を振りほどきなさい。そうしてそのガラスの靴を置いて逃げるのさ。その靴があれば、きっとおまえはチャンスをものにできる。ああかわいいよ、シンデレラ。婆の言うことをよくお聞き。わかっているね、シンデレラ――。
ロミオよロミオ、どうしてあなたはロミオなの? あなたがでもその名を捨てることはないわ。わたしが捨てましょう。わたしがジュリエットというこの名前を捨てましょう。いいえわたしは月になど誓わないわ。わたしが誓うのはこのわたし。あなたなどでもなくこのわたし。わたしはわたしに誓ってわたしでなくなる。だからあなたもあなたに誓って。お願い、わたしを迎えに来て。ロミオのままでわたしを迎えに来て。それができるのならば、この手を取って。言って。わたしは言うわ。
『ねぇ、わたしと生きてくれる?』
御伽噺なんか嫌い。そんなの信じてないわ。そんなのだって、ありえないでしょう? わたしはわたし。煤に塗れた灰かぶりは絶対に、絶対に、お城なんかへ行けないし、王子様の腕に抱かれてダンスを踊ることなんかできやしない。パパとママに愛という鳥籠の中で育てられたという名目で、首輪をつけられて閉じ込められたわたしは絶対に、そこを抜け出して誰かの腕にすべてを委ねるなんてそんなこと、できるわけがないんだ。できるわけがないのよ。ねぇ、ねぇ、ねぇ、わたしの王子様――。
初めて、ママに嘘を吐いた。
初めて、パパに嘘を吐いた。
初めて、誰かに本音を吐いた。
初めて、この腕を見せた。
初めてよ、あなた。わたしの、あなた――。
「きみはいつだって、悲劇のヒロインぶってる。それでもいいよ。俺だって、無頼ぶってる。俺の姫様。名前を教えて」
好きな名前で呼んでくれればいいわ。わたしは、別に、誰でもないんだから。
「そうだな。それじゃあジュリエットと洒落こもうか。俺に似合わぬお姫様」
だめよ。だめよ。わたしは首を横に振る。あなただけはだめ。バッドエンドの物語のお姫様にするなんて、悪趣味ね。そんなに、引き裂かれたいの?
「それでは、どうしよう? 俺の手の届かない、ラプンツェルとでも呼ぼうか?」
それでもだめよ。あなた、わたしのためになにかを失うことになる。一時的にせよ、それはわたしの望むところではないわ。
「じゃあ、きみは、だれ?」
――シンデレラ。
「タイムリミットつきの姫。いいよ、それがいいなら。何時まで俺の傍にいてくれるの?」
そうね、二十一時まで。
「酷いな。シンデレラよりもずっと早い」
だったら、奪ってくれればいいわ。
二十一時。あなたにさよならを告げる。数時間後の約束をして。二十二時。パパとママからお説教。自粛という名目で、ひとりのお部屋で泣き真似をする。二十三時。ママが夜食と称して淹れたての紅茶とキャラメル味のクッキーを持って部屋のドアを叩く。要らないわ。わたしは反省しているの。それに、そんなものをこんな時間に食べたら太ってしまうわ。二十三時半。パパとママが部屋のドアを叩く。反省しているね。それでいいのだ。えぇ、パパ、ママ、わたしが悪い子だったの。これからはもっと早く帰ってくるわ。二十四時。部屋のドアを開けてわたしはパパとママの寝室へ赴く。ごめんなさい。わたし、もっといい子になるわ。だから、今日は、おやすみなさい。明日目覚める頃には、わたしはちゃんと、変わっているから。わかったよ。かわいい娘。おやすみ。
『いい夢を』
[5]続きを読む
03月21日(月)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る