ID:19318
13匹目のバナナフィッシュ
by サキ
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■迷子石
数年ぶりの大雪で、浮浪者がふたり、凍死したというニュースが天気予報の中で語られた(二日後にはもうひとり、雪に埋もれた状態で発見された)。
そんな天候だから、通りを歩いている人などほとんどいない。神社境内にある迷子石も、昔話のかさじぞうよろしく、白い雪を重たそうにかぶっていた。
迷子石――奇縁氷人石とも言う。数百年前に建てられたものだろう。迷子を知らせる掲示板のようなもので、右側に「たずぬる方」、左側に「おしゆる方」と彫ってある。子どもにはぐれた親たちは、その子の名前や特徴を書いた紙を「たずぬる方」の方へ貼り、迷子の子どもを保護したものは、やはりその子の特徴を書いた紙を「おしゆる方」のほうへ貼り付けていく。寺社や市の立つところなど、人の出が多いところに、民間で立てられたものであった。
現在はほとんどの場所で、そのようなものは見当たらない。見当たったとしても、それはもはや旧跡遺跡の類で、その本来の役目を果たすことは、すでになかった。
その迷子石の中央に貼り付けられた奇妙な紙切れを、最初に発見したのは、札売りの巫女のアルバイトに来ていた女子高生だった。彼女にはその紙切れの意味するところはおろか、迷子石がなんだかも知らなかったが、薄気味悪くも感じたので、それを神主に渡した。渡された神主のほうも、その紙切れを見て、しばらく考えてしまった。悪戯かなぁなどと呟きながら、しかしと思い、それを今度は神社の経営者に手渡した(昨今、寺社も経営されているのである)。さて、経営者もまた、それを渡されて困ってしまった。神主のほうは荷が下りたとばかりに、
「それではわたしは交通安全祈願のお払いがありますので」
とさっさと辞してしまった。もう内部には上役のいない経営者は、困った挙句に徒歩10分の交番に行くことにした。そこでまた、紙切れを見た警察官が困るはずであったのだが、そこに偶然大手新聞社の記者が居合わせたことで、この出来事は大掛かりな事件に変貌するのだった。
「これはおもしろいじゃないですか。ねぇこれを記事にさせてください。ほら、ここにだって生まれはこの土地ではないという意味のことが書いてある。ここだけで人探しをしたところで、この人が望むような結果は出ませんよ」
「しかしあなた、ここを見てください。悪戯じゃないですか?あきらかにおかしい……」
「年号が明治だったからって、なにがおかしいんです?これはきっと、この人の親御さんがこの人を迷子にした日です。そう考えれば説明がつくでしょう?えぇ、きっとそうに決まってます。任せてください。わたしが記事にして、きっとこの不幸な親子の縁を結んであげますよ」
そしてそういうことになった。警官としても、このようなやっかいな人探しは、他人任せにしたいというのが本音で、正直ほっとしていたことだ。
さて、やっかいなその紙切れの中に書かれていたことを、ここでやっと紹介することにしよう。内容はこうである。
みや 五歳 をんな児
迷子になりたるときは白い西洋風の木綿服を着用
右目の下に目立つほくろあり
初詣の夕刻、○○神社参詣時にはぐれつるが 在はよそにあり
明治四十三年 元旦 きく
そして記者は、これを堂々と、全国版の一面にそのまま載せたのであった。のみならずその手紙の内容に、迷子石の歴史、舞台である神社の明治時代の市がどのようなものであったかと現在の様子、また、そのころの風俗に絡めて「白の西洋風の木綿服」がどのような階級の人間を表すのかなどの説明を加え、仕舞いに記者の独断と偏見によるお涙頂戴の母子物語が付け加えられた。それはよくできた話だったが、ここでは割愛する。
さて、その新聞が発行されるや否や、大変な反響が巻き起こった。
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02月02日(水)
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