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13匹目のバナナフィッシュ
by サキ
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■歌われなかったレクイエム(デカダン)
その日、わたしは死んだ。
どうして死んだのか、死んだ理由はわからない。葬送のとき、あの人が泣いてくれていたので、どうやら自殺ではないだろう。長患いの憶えもないので、たぶん病気でもないと思う。きっと、事故とか、病気にしても突発的なもの、なんだろうと思う。
死んではじめてわかったことだが、死に際前後の記憶というものは、死後までもっていけないらしい。とはいえ、生きているうちから健忘の気があったわたしのことなので、これが万人に共通することであるのかどうかはわからないが。だけれど、考えてみれば、死ぬときというのはきっと苦しんだり痛んだりするもののはずなので、それを忘れるというのは、とても自然な機能なのかもしれないと思う。まったく、死んだあとにまで気を配ってくれるとは、人間の生理というのは本当に素晴らしい。
死んだあと、最初に見たのはわたしの葬送の様子だった(よく言うお花畑とか、三途の川とか、そういうものも確かにあったろうが、うすぼんやりとした記憶として残っているだけで、実際そこを歩いていた覚えはない。それはわたしが確かに死んでしまったからだろう)。
葬送。
確かにそれはわたしの葬送だった。
人が、人数はよくわからないが結構たくさん、黒い服を着て、見覚えのある道を歩いている。腐りかけたわたしの肉体の入っているらしい柩を担いでいるのはどれも男で、知っている人も知らない人もいた。花で彩られた遺影を手に歩いているのは、見知らぬ女の子で、多分親戚の子どもか何かだろう。遺影をよく見てみたが、集団写真を無理矢理引き伸ばしたようなピンぼけ具合で、あまり気に食わなかった。花はお決まりのデンファレやカーネーションで、大振りのカトレアが一輪、不自然にも華やかだった。
先頭を、憮然とした顔で兄が大股で歩いていた。後ろがついて行かないからと、兄嫁が度々注意しているのが可笑しかった。
わたしはあの人を探した。いないはずがなかった。
ふと、列の尻の方に、あの人を見つけた。最近、わたしへの情愛が少し欠けてきた気がした婚約者であるあの人が目を赤くして、俯いて黙々と進んでいるのを見て、わたしは安心した。安心した途端、糸が途切れたように視界がふつりと消えた。
<葬儀前夜 義兄の書斎>
「きみに遺族としての出席は認められんよ」
「何故です」
「何故ですって、きみが一番良く知っているだろう。苦しみは死後に持って行けないなど、愚かなことを言ったものだ。それを信じた妹も愚かだが……」
「……証拠はなにもないでしょう」
「妹が漏らした。おれは聞いた」
「それではないのと同じです。彼女には精神疾患がありました。医者にも通っています。特に健忘が著しかった。だから納屋の治らない病気の家畜を苦しまずに殺してやるために自ら作った毒入りの水を、忘れて誤って飲んでしまった。そうでしょう?」
「そうだろうか。そういうことにはしたがね。……きみの書いた小説に、似たような描写があったね、確か。死者が自分の葬列を見下ろすというやつだ。妹はあれが好きだった。……もっとも、あれ以外にきみは、なにか書いたかね?」
「……関係ありませんよ」
失礼します、と青年は彼の義兄に背を向けた。部屋を出る直前に彼は少し振り向いて言った。
「お義父さんは確か神経衰弱の挙げ句亡くなったそうですね。先先代ははっきり発狂の末の自殺だと診断されていたと、あなたから伺いました。妹さんも今回の始末です。あなたにも、遺伝子は受け継がれているようですね」
懐疑的被害妄想だと低く呟いて、青年はドアを閉めた。呟きは確かに相手に伝わったらしく、ドアの向こうで不快な物音がしたのを聞いた。
青年の顔は少し蒼ざめてはいたものの、額に脂ひとつ浮き出ていない。しかし実際、背広で隠れていたために一見にはわからなかったが、青年の白いシャツはじっとりと汗ばみ、ほとんど真夏のような状態だった。
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08月30日(月)
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