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13匹目のバナナフィッシュ
by サキ
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■【版権】【ボカロ】ロミオとシンデレラ【R15】
 二十五時。まるで漫画のように、ラプンツェルの王子のように、わたしは窓をそっと開け、窓枠に手をかける。ヘッドライトを消した見慣れた車のミラーがちかりと光る。ライターの灯り。いち、に、さん回。――姫、連れ出す準備は出来ているよ。あなたのサイン。裸足のシンデレラ。そっと、窓枠に手をかけ、ゆっくりと屋根の上に降りる。冷たい。窓をゆっくりと閉め、静かに、でも急いで、屋根から塀へ、塀から道路へ身を移す。
「悪い子だね」
 えぇ、でも、それはパパとママにとっての印象だわ。あなたにとってはどうなの?
「とんでもなく、いい子だよ」
 車は滑るように走り出す。着いたのはお城、のような形をした建物。見たことがあるわ。テレビでね。


「化粧をしてきたの? 女の子は怖いな。見違える」
 何度もひそかに練習をして、前からも、横からも、上からも、下からも、魅力的に見える長さの睫毛を手に入れた。ちょっと背伸びしてるくらいがちょうどいい。シンデレラのままじゃいたくない。
「怖い?」
 怖がらせるつもり? 酷いひと。
「甘い。いい匂いがする。お菓子みたいだ」
 息遣いが、耳に熱い。なぁに? 子供扱いする気なの?
「まさか。大事に扱わなきゃと思ってるんだ。お菓子みたいなお姫様はね、噛み応えがあるくせに、不用意に口にするとすぐに、溶けて壊れてしまうから。……ほらね、こんな風に」
 何時間も選んでやっと決めた黒いレースの肩紐に、固い指が触れる。震える身体にしっかりしなさいと呪文をかける。子供だと思わないで。甘く見ないで。こうやって、ほら、しっかり立てるわ。それでも身体中の神経に意識をやればやるほど、空気すら感じられるくらいに、皮膚が、髪が、爪が、敏感になる。
「息はしなくちゃダメだよ、シンデレラ。立てないのなら、支えるからね。息ができないのなら、大丈夫、手伝ってあげるから」
 固い、厚い、熱い、胸。わたしの全体重が凭れかかってもびくともしない身体。ひとりで息をすることもできなくなった未熟なわたしに人工呼吸。ダメ、ダメ、もうダメ。全部、全部、わたし、あなたになってしまう。あなたに埋められてしまう。
「シンデレラ。タイムリミットつきの俺のお姫様。名前すら知らないきみが、いいの? どうして?」
 どうして? だって、知らないからこそ、知りたいのじゃないの。
「なるほどね。本当だ。じゃあ、俺の、なにが知りたい?」
 それは……。決まってるじゃないの。


 ねぇあなた、あなたの腕はどうしてそんなに強いの?
 それはね、きみを離さず抱きしめるためだよ。
 ねぇあなた、あなたの肌はどうしてそんなに固く、引き締まっているの?
 それはね、きみの柔らかさがより際立つようにだよ。
 ねぇあなた、あなたの息はどうしてそんなに熱く、わたしの肌を粟立たせるの?
 それはね、きみをもっと自由にさせるためにだよ。
 ねぇあなた、あなたの身体はどうしてそんなに、そんなに……あぁ、ねぇ、どうして……?
 それはね、それは……きみの、きみの首輪を外すために。きみの時間を止めるために……!


 二十七時。足音を忍ばせて、わたしはもと来たように窓から真っ暗な部屋に戻る。静かに、低い音を立てて、車の赤いテールランプが遠ざかるのを虚ろに眺める。左の耳をふと押さえる。痛い。あのひとの耳も、同じ痛みを持っているのかしら。わたしの歯型を残しているのかしら。あのひとはそして、気づいたかしら? 助手席にそっと落としておいたガラス玉のピアスの片方。少しでもわたしを思い出すよすがになるように。策略的? いやらしいことをする? だってわたしはシンデレラ。ガラスの靴を残すのは、セオリーじゃない。



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03月21日(月)
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