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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■アクシデンタル・カメラマン/舞台『戸惑いの日曜日』/『もやしもん』4巻(石川雅之)/『月蝕領映画館』(中井英夫)
 さてこのカット、状況によっては使えるだろうか。

 ボタ山の上に登りきったところで、いざ撮影再開、と思ったところに、向こうから子供が登ってきた。
 こんな夜に近所の子供だろうかと声をかけてみると、「パトロールにお父さんと来ています」と言う。
 さてはさっきのしげ。の「助けてー」の声を聞き付けてきたらしい。
 とんだゲスト出演者が現れてしまったが、ことによるとこの子との会話も映画のブリッジにそのまま使えるだろうかと考える。
 探偵は一人、というつもりだったが、カメラマンが随伴、という設定にしてもいいかもしれない。


 晩飯は「庄屋」でマクロビ膳。
 私はよく知らなかったのだが、マクロビってのはマクロビオテックの略で、穀類や野菜を中心とした食事のことを指すらしい。中身は玄米ご飯にけんちん汁、湯葉に山菜といったもの。以前も同じメニューがあったけれど、そのときは確か「湯葉御膳」とか何とか言う単純な名称だったと思う。
 要するに日本の伝統料理なのだが、こんなふうに新しい言葉で紹介されるとなんだか新発見っぽく聞こえるっていうんで、メニューを一新したのだろう。
 味は悪くないが、980円という値段はちょっと高い。流行ものは高く売ろうって腹か。でもおかずの量もたいしたことないし、せめて780円くらいで商売してほしいものだと真剣に思う。


 マンガ『もやしもん』4巻(石川雅之)。

 限定版は悩んだ末、買わず。フィギュア付き買うと小うるさいやつが近くにいるもんで。
 でもどこの店でも完売なようで、好きなマンガが人気呼んでるのを見ると嬉しい。『のだめ』人気もいささか作用してるかもしれないが(二ノ宮さんがホントに作画協力してるよ)。

 主人公が影薄いとか言われているけれども、キャラクターはちゃんと立ってるからいいの。
 あの、「菌が見える」能力について、誇るでもなく嫌がりすぎもしないところが、イヤミじゃなくていいんだからさ。
 特に今巻は、魔女っ子ものにはつきものの「魔法が使えなくなっちゃった!どうしよう!」という展開で(いや、『もやしもん』は魔女っ子ものじゃないけどな)、しかもそれがやはり『もやしもん』らしく、意外な原因と、恋愛ドラマになりそうなならないような微妙で絶妙なバランスのなだらかな盛り上がりとで、まったりと魅せてくれるのだ。

 ……まあ、こう遠回しに書いてても何のことやら未読の方にはよく分からないだろうけれど、ネットとかで内容を調べる前にやっぱりゲンブツを手に取って読んでもらいたいのである。
 農学的なウンチクが好きな方には、樹教授のお話をどうぞ。今回の題目は「ウンコから火薬を作る話」。『もやしもん』は教養マンガでもあるのです(笑)。


『中井英夫全集12「月蝕領映画館」』(創元ライブラリ)。

 『虚無への供物』はミステリファンにとっては「これを読まずしてミステリファンを名乗るな」的なバイブルであるが、その人が大の映画ファンであったということは非常に嬉しいことである。
 と同時に、中井氏の映画エッセイが、この一冊しか残されていないことに無念もまた覚える。どうしようもない駄文で各種雑誌の紙面を汚しているプロもどきは腐るほどいるからだ。

 鈴木清順の『陽炎座』を評するのに、原作となった泉鏡花の短編が、公表されている『陽炎座』『春昼』『春昼後刻』のほかに『酸漿(ほおずき)』も含まれているだろう、と指摘しているのはまさに慧眼で、ただの感想ならばいざ知らず、映画「批評」にはこのような教養が絶対に必要になるのである。
 清順監督からは、中井氏に「何かシナリオ書いてよ」との依頼があったそうで、これが実現していたらどんなに心を躍らされたことか、中井脚本による『カポネ大いに泣く』や『ピストルオペラ』が、いや、清順版『虚無への供物』が見られたかもしれないと思うと、氏の早世を悔やむばかりである。


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01月03日(水)
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