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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■放生会の掘り出し物/『博多の心』(朝日新聞福岡総局)/『魁!! クロマティ高校』5巻(野中英次)
私は祖父の晩年の作品を一点だけ持っている。高校入学のときだったか、記念に貰ったものだ。湖水で釣りする老人がわずかな線で掘られている。初め私は「獏」の絵を依頼したが、もうそのころには大作を作れる体力は祖父にはなかった。それでも脇辞に「綜藝綜智(しゅげいしゅち)」と彫ってくれた。
それが今でも私の座右の銘となっている。
『博多の心』は父も持っていたが、自分でも持っていたかったので買った。元値は980円だが、600円。絶版本でもそう高値にはなっていないが、せいぜい20年ほど前の本ならこんなものだろう。しかし、ここに載せられているほかの職人さんたちも、今やほとんどが故人。博多の心は着実に消えていっている。
新生姜を買って(これも放生会の名物)、父の店に届ける。
そのとき、『博多の心』も見せる。
父、「よう(こんな珍しいものが)あったな」と驚きながらも喜んで、姉や、丁度遊びに来ていた姉の娘さんのあっちゃんに写真を見せる。本には祖父の作品、松に鷹の絵を彫った堂々たる大作が載っているが、あっちゃん、目を丸くして「すごーい!」と叫ぶ。ここに写真を紹介できないのは残念だが、若い子が見ても一発でその凄さが分るほどの堂々たる芸術作品であったのだ。考えてみればそんなものを二束三文で卸していたのだから、祖父も随分欲が無かった、というより高い金は取れない、というのが矜持でもあったのだろう。
知り合いの本屋に寄って新刊マンガをいくつか物色。
丁度そのとき、日朝国交交渉終了のニュースが店先のテレビから流れてきた(ここのおじさん、いつもテレビを見ているのである)。
覚悟はしていたろうが、拉致されたご家族の悲しみはいかばかりであったか。
マルキョウに寄って買い物。
ずっと探していたかき氷のシロップをようやく発見。「ブルーハワイ」を見つけてしげ、狂喜。「イチゴが無いのは残念だけど」。ついこの間まで「イチゴは嫌い」とか言ってなかったか。無いとなると別に欲しくなかったものまで欲しがるようになるのだから、やっぱりしげの根本的な性格はジャイアンである。
さて、8人の犠牲者が判明した日朝国交交渉だが、単純に考えれば、洗脳に成功した人間が生き残り、抵抗した者が殺された、というのが真実に近いだろう。「病死」なわけがあるかい。
洗脳されたフリでもして、なんとか生き延びられなかったものか、と思わないでもないが、そうそう人は自分を偽れないものだ。私だって、当時、拉致られて金日成に忠誠を誓え、なんて言われたら、やっぱ抵抗するだろうし。これは日本に対する愛国心があるというわけではなく、力でもって服従されることに強い拒否感があるからだ。もっとも、拷問されたらその場凌ぎで「キムイルソン、マンセー!」とか叫んじゃいそうだ(-_-;)。
北朝鮮がこれだけ真実を認め、素直に謝罪したというのは、日本が初めて強行外交に出たからというよりは、アメリカの後押しがあったからこそってことは間違いないことなんで、あまり嬉しくもない。だからって、その理屈で、ブッシュの今の強行姿勢を支持したくもないんだが、やっぱり国際社会もヤクザに対しちゃヤクザで対抗しなきゃダメってことなんでしょうかね。一歩間違えば北朝鮮だって窮鼠猫を噛むで、ヤケな行動に出る危険が今でもあるってことは、こないだの不審船騒動でも分かってることだと思うんだが。金正日が本当に統制力を持ってるなら、こんな訪朝直前の騒動は起こらなかったはずなんだけどね。
ともあれ、日本人は北朝鮮を責める口実を手に入れてしまった。いくら北朝鮮の人が侵略戦争がどうの、と言いだしても、反駁する材料が公然と与えられたのである。図に乗って、在日の人たちに罵声を投げかけたり、差別的な行動に出るバカ日本人がまた大挙して出そうな気配がして、民間レベルではそっちの方がずっと心配なのだが。
マンガ、野中英次『魁!! クロマティ高校』5巻 ―天使編― (講談社/マガジンKC・410円)。
大事件が起こってるってときにまたこんな本を(^_^;)。
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09月17日(火)
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