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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■鬱陶しい雨の日の、鬱陶しい話。
一つは「石川啄木」に関するエピソードで、ご承知の通り春彦先生の御父君、金田一京助氏は啄木の親友だった。しかし放埓な啄木は遊蕩に金を使い果たしては京助氏のところに借金を申しこみにやって来る。これを京助氏は同郷のよしみで絶対に拒まない。けれどあまりに遠慮のない啄木の借金ぶりに、幼少のころの春彦先生は、てっきり自分の父親の方が「取り立てられている」と勘違いしていたそうだ。こんな御父君の優しい人柄が、そのまま春彦先生の人柄にも伝わっているように思う。
もう一つ、春彦先生の優しさを表すエピソードが、あの「金田一耕助」の生みの親である横溝正史にまつわる話である。やはり御父君からその探偵の名前を勝手に拝借していたことをずっと気に病んでいた正史氏は、京助氏の生前、機会はあったにもかかわらず、一度も京助氏と会おうとしなかった。そのことを聞いた春彦先生は、人伝に正史氏に「いえ、あなたのご著書のおかげで、私の名前がちゃんと“キンダイチ”と呼んでいただけるようになりましたから」と感謝したというのである。
実はこのエピソードは御父君の京助氏のものだ、という説もあるのだが(何しろ、正史自身がエッセイで「京助」説と「春彦」説の両方を披露しているのである)、どちらでもかまわないように思う。金田一耕助の飄々とした人物造形には、親子揃って、金田一先生の人柄もいささかは影響しているように思うから。
数年前、機会があって、金田一先生にもお会いできるはずだったが、既に体調を崩されて叶わなかった。返す返すも残念でならない。
05月19日(水)
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