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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■祝! 退院!/映画『RED SHADOW 赤影』
 最後の病院食は白すり身の磯辺焼に、ひじきの煮付け、がんもどきにオレンジ三切れ。全部合わせても250グラム程度。
 「これでも私、他の患者さんに比べると食べてるほうなんですよ」と言うと同僚に驚かれる。どうせたいした病気じゃあるまい、なんて、内心、鼻で笑ってるから「大変」なんておざなりなセリフが出てくるんだろう、マジで苦しい思いしてるんだからな、こっちはよう。
 ああ、いかん。
 いきなり気持ちがスサみ出しちまったい。これで通勤拒否のヒキコモリにでもなっちまったらどうしよう。

 同僚、5分で見舞いを終えてさっさと帰る。
 ムダがなくてよいことである。
 私も銀行に行って、早々と入院費の精算を済ます。さあ、これで保険料が出るまで、今月は金欠病だ。


 午後2時、しげが迎えに来る。
 今朝も自動車学校に行ってて、午前3時からずっと起きてるそうな。「すごく眠い」と言ってるが、いつものことだ。
 ちょうど保険屋さんも来るが、用意していた印鑑が違っていた。父から「通帳の印鑑」と聞いて用意していたのだが、「証書の印鑑」だったのだ。またボケが進行しやがったな。
 仕方なく保険屋さんには明日自宅のほうにきてもらうよう頼む。
 ……親父は自分の知らないところでこんな風にやたらと周囲に迷惑をかけているのだが、そのたびに「そんなの気が付かなかったんだから仕方ないじゃないか」と言って開き直り、怒ってこちらが「少しは謝ったらどうだ」と詰め寄ると「ごめん!」と怒って謝るのである。とことん素直になれないヒネクレモノなのだが、その負けず嫌いな態度が、驚くほどしげに似ているのだ。
 別に血がつながってるわけでもないのになあ。
 しげも昔はまだ素直で、ヒネクレ出したのは結婚してからだから、義理でも親子って、自然に似ちゃうものだってことなのか?

 糖尿病教室が始まるところなので、一緒に聞く。退院後に注意することの説明だが、レジュメを読み上げるだけなので退屈。
 しげが「どうして糖尿は足をきれいにしなきゃいけないの?」と聞いてくる。
 「神経障害が起こってないか気をつけるためだよ」と説明。
 ……さては、水虫が出来やすいんじゃないかとか勘違いしてるな。

 続けて栄養士さんの指導を二人で受ける。
 「外食だけでカロリーコントロールできますか?」という無理かつ失礼な質問にも懇切丁寧に答えていただく。
 丁寧だけれど、答えはもちろん「無理です」。
 ……そりゃそうだろう。
 でも料理をして食べる時間なんて、平日は全く取れないんだよねえ。また太るかなあ。太りたいわけじゃないんだけどなあ。
 退院時の体重、79.5キロ。なんとかこの体重をキープしとかないとなあ。

 ナースステーションで看護婦さんたちにお礼を述べて辞去。
 時間は午後5時。
 次の来院の予約だけしてもらう。本当は半年後が一番いいそうなのだが、もう予定が詰まっていて、4月2日にならないと先生方の体が空かないのだとか。
 やれやれ、また仕事を休まにゃならんか。
 
 夕食は西新の最後の思い出に(大仰だなあ)、美味しそうな店を探す。
 しげが中華がいい、というので、マップを見て2軒ほど見つける。
 小さいがガイドブックに「辛いけど美味しい」と書いてある店と、無印だけどチェーン店らしい大きな店。
 しげ、迷うことなくチェーン店の方を選ぶ。
 「おまえ、その街の味を探そうって気持ち、まるでないね」
 「街の店って不味いところって多いし。だったらファミレス系のほうがいい」
 名物に美味いもの無しって言いたいんだろうけれど、超偏食かつ味オンチのしげがなにクソ生意気なこと言ってるんだ、説得力ねえぞ、と思う。
 で、そのチェーン店でしげ、中華丼とから揚げを頼む。
 一口食べて、「臭い」と言ってしげ、それ以上食べない。味見してみると、別に不味くもなんともない。空腹でしげの舌がバカになってるだけだろう。

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08月24日(金)
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