ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■9.嫉妬と独占欲
男女の言い争う声が廊下にまで響いている。
それが自分の向かう教室から聞こえていることに気付き、乱菊は大きく溜息をついて足を止めた。男の方が一方的に女に怒鳴られているようで、低い声が何かをぼそりと言うとすぐに女が金切り声を上げている。乱菊には女の声しかはっきりとは聞こえなかったが、相手の男が誰であるのかはその声と訛りで、何より気配ですぐに判ったから、とにかく関わり合いにならないようにと背を向けた。机の中に忘れてしまった教本は必要なのだが、仕方ない。面倒だが後で、午後の授業全て終わった頃にでも取りに来ようと乱菊は思う。
廊下を引き返そうと一歩踏み出したところで、背後が急に静かになった。一、二、と数えたところで女がしゃくり上げる声がした。乱菊は窓の外に眼をやる。淡い黄緑色に芽吹いた枝の向こうに広がる空は淡く青い。雲は白い。日に日に暖かくなる太陽の光がまんべんなく降りそそぎ、廊下には柔らかい窓枠の影が規則正しい四角の枠となっておちている。その陽気に似合わない、乱暴に戸を開ける音がした。乱菊は振り向かない。悲痛な泣き声とぱたぱたという足音が近づいて、乱菊を追い越していった。泣きながら走り去る女子学生は華奢で小さく、焦げ茶色の真っ直ぐな髪をしている。乱菊の制服よりも袴の裾や肘などのあたりがきれいだから、おそらく下級生なのだろう。その影が廊下の角に消えたところで、乱菊は振り向いた。
教室の扉に寄りかかったギンが、へらりと笑った。
「ギン」
「どないしたん、乱菊。こっち来はった思うたら背ぇ向けて。こっちに用事あるんやないの」
ギンはいつも通りの、乱菊にだけ向ける顔をしている。乱菊は習慣的に周囲を見渡した。人影はない。耳を澄ましても気配はなかった。ギンは小さく笑い、
「誰もおらんよ。昼休みやさかい、皆、教室になんかおらへんよ」
と言った。乱菊は苦笑して、本を抱え直す。
「……忘れ物を取りに来たのよ。全く、痴話喧嘩を教室でするの、やめてよね」
「せやからボク、話終わらせたやないの」
「最っ低」
呆れた声で乱菊は呟く。目を細めてみせると、ギンは困った顔をした。
「あんた、あの女の子に何言ったのよ」
「ええぇ、別に何でもええやないの」
「言ってみなさい」
問いつめるとギンは更に眉を寄せる。少しばかり唇を尖らせてすねたようにするが、諦めたのかギンは口を開いた。
「ええとなあ、あの子いろいろ言うてくるさかい、面倒やから周りうろうろしよるの止め、て」
乱菊は呆れて口を開けて、また閉じた。ギンは乱菊を窺うように覗き込んで、
「で、泣きよるからな、君が何しよっても興味ないしどうでもええし、せやからボクに何か望むん止めてもらえるかなあ、うっとし、て……言い、ました」
と声を小さくして話す。乱菊は険しい目でギンを見上げた。ギンがせわしなく視線をそらす。
「あんた、最低最悪」
「う」
「言語道断」
「うう」
「女の子にうっとうしいなんて言うもんじゃないわよ。まったく」
そう言って乱菊が睨むと、ギンが不服そうに視線をそらした。
「せやけどな、別にボク、あの子とどうこうしとったわけやないんやぞ。あの子が傍におっていいか聞きよるから、好きにしたらええって言うただけやもの。別にボクがあの子に何か望んだわけやない」
「あんた、最初から大きく間違ってる」
乱菊はまた大きく溜息をつく。
「女の子の方は、あんたに好いてほしくて近づいてるんだから、その意に添えないんなら最初から断ってあげなさいよね」
ギンは小さく笑った。
「それはおかしいわ。女の子の意に添えるかどうか、最初はわからへんもん。せやから一応、断らんでおるんやけど」
「……なぁんだ。あんた、恋をする気があったのね。一応」
意外に思って乱菊がギンを見上げると、ギンは柔らかな目をして乱菊を見ていた。
「恋うんぬんはどうでもええけど」
囁くような声でギンは言い、乱菊の右手を両手で取る。それの甲を自分の唇に当てるようにして、ギンが眼を閉じた。
「ただ、なあ……ボクも、もう少し、うん」
吐息を手の甲に感じて、乱菊はその骨張った手を握りしめた。そして苦笑して、
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01月09日(火)
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