ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■絶対的な響きをもって鐘の音は時を告げた 2-1.5
 乱菊と一緒に暮らすようになってから、もうどれくらい経ったのだろう。かなり長い年月を乱菊と過ごしたが、その間に何度家を出たことだろう。
 最初に家を出たあの時からしばらくは、ギンは乱菊の傍を離れることをしなかった。一年くらい、一緒に眠り、食べて、放浪していた。家を出たときの感情を捨て去ったわけではなかったが、ギンは乱菊とともに暮らす日々の方がいとおしかった。
 本当にそう思っていたはずなのに。
 しばらくすると、ギンはふとした拍子に、無性にどこか遠くへ行きたくなった。自分でも不思議な衝動だった。どこか苦しくなって辛くなって、ギンは夜明け前にそっと住処を出るようになった。最初は理由を自分に与えた。自分達を付け回す人さらいの男を脅して追い払うとか。住んでいた周囲で騒がれる殺人集団を潰しに行こうとか。襲ってきた強盗の残党を捜そうとか。けれどそのうちに理由もなくなり、ギンはただ、出ていくようになった。
 どうしてなのか。ギンは自分の感情がわからなかった。
 ときどき、静かに寝息をたてる乱菊の横にいて寝顔を眺めていると、ギンは無性に苦しくなった。乱菊がすぐそばにいるのにも関わらず、遠く感じるこの感覚。咄嗟に乱菊の頬に触れようと思って手を伸ばしても、その滑らかさが怖くて触れられない自分の指。こういうときにギンは思い出した。乱菊が呆然として、それでもギンを守ると言ったあの夜。ギンは、発作的に「乱菊の傍いたらあかん」と感じて、家を出ていく。
 そしてそんな風に出ていくのに、すぐに乱菊の不在がギンを押しつぶした。乱菊が自分を捨てたかもしれないという妄想がギンを押しつぶした。耐えきれなくなってギンは乱菊を一目だけ見に、乱菊がまだ待っているかどうかだけを確かめに、こっそりと戻る。そしてギンに気づいた乱菊に出迎えられる、ということを繰り返した。幾度も幾度も繰り返した。
 最初の出奔については、ギンは自分でも理由がわかっていたし、それを納得していた。安全に中央に行ける手段が乱菊にあったこと。このままそばにいたら乱菊もまた自分と同様に血塗れになってしまうと思ったこと。ここで乱菊と別れれば、乱菊は幸せになれると思ったのだった。
 しかしその後の衝動がよくわからなかった。人殺しに関しては、乱菊にはさせていないし、ギン自身も、本当にどうしようもないとき以外は怪我をさせるに留まっていた。そして何より、この衝動が沸き起こるのは、人を殺した直後などではなく穏やかな日常に不意に立ち現れるのだった。発作的に、乱菊のそばにいることに苦しくなる。自分が何よりも乱菊を求めていることを知っていたギンは、どうしてそうなるのか不思議でしかたなかった。ただ、ギンは、自分の衝動を深く追求はしなかった。混沌とした感情を形にすることなく、ただ苦しさから逃れるように家を出るだけだった。

 それは何度目の出奔だったろう。
 そのときには理由に出来る事があった。住んでいた集落に強盗の集団が出没した。住人はみな殺されることはなかったものの、ギンと乱菊は顔を見られた。すぐに二人は場所を移り、次の住処は森の中に隠れるように作った。けれどギンは集団を追い払うことを理由にして、夜中に家を出た。ここは見つからないだろうから乱菊は安全だと、自分に言い聞かせていた。
 強盗集団はすぐに見つかった。次の日の夜、再び集落を襲おうとしていたところに出会したのだった。記憶と目の前の男達が符合することを確認すると、ギンはすぐに刀を抜いた。殺すつもりはなかったが、乱菊のいる場所からずっと遠くに追い払うつもりだった。
 殺さずに追い払うには時間がかかった。数日かけて、気を抜くと喉笛を掻き斬りそうになる自分を抑えながら、ギンは何度も男達を不意打ちで襲い、住処から少しずつ男達を離していった。木の上で休息をとり、男達との距離を保ちながら機会を見計らって襲撃する。繰り返しているうちに、ギンは自分の感覚が研ぎ澄まされていくのを感じた。
 自分の中が仄暗く透明になっていく感覚。

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03月11日(土)
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