ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■ぼくらはただそうやって世界を手にした 1
 ギンは、数少ない「腹が減る」人間だった。それは霊力があるからだということを知ったのは、自分には正体不明の力があるということを知ったより後で、分からないながら両手にみなぎる力を使ってある集落の食料庫から食料を強奪しているときに、警備していた人間から叫ぶように教えられた。
「なら、アンタら腹減らんのやな」
 自分を囲む大人達に向かってギンが問う。おそらく大人達のリーダーであろう一人が、一言、
「だから何だって言うんだ。強いもんが奪うのがここの流儀だ」
と言った。その大人は下卑た笑いを浮かべている。他の大人達もみなそうだ。武器を持つ手が手慣れていることから考えても、この集落は強盗の集団なのだろう。こちらに向けられている刀のひとつに、血錆びが浮いている。どうりで忍び込むときに黒く血の乾いた女物の着物があったわけだと、ギンは納得した。おそらく怪我をさせて連れてきて、散々嬲って殺したのだろう。
 目の前の連中に自分と同類の、霊力というものがある人間はいないようだ。食べ物は快楽だけのために食べられているのだろう。快楽だけの集団。ギンは薄く笑った。
「ほな、ボク、流儀にならうわ。食べんと死んでしまうしな」
 ギンは勢いよく脚を肩幅に開いて踏ん張る。その瞬間、風のようなものがギンから迸り、取り囲んでいた人間を切り裂いた。血が舞い上がり、後列にいた人間から悲鳴が上がる。倒れゆく人間だったものと、驚きと恐怖で動けなくなった人間達の間をすりぬけてギンは持てる限りの食料を持って駆けだした。
「さいなら」
 振り返り、そう笑って言うと、ギンは一目散に逃げ出す。我に返った生き残りの人々が追いかけてきたが、走りながらギンは片手を突き出して、そこから正体不明の力……いわゆる霊力の塊を打ち出した。それは最前列にいた人間にあたり、悲鳴と血飛沫があがった。そのすきにギンは一気に距離をあけて森の中へ駆け込んでいった。
「みんな潰さんだけ、マシや思うて欲しいわ」
 安全な隠れ家について、ギンはそう呟いた。ギンはこれまで、意味もなく殺したり、素直に食料をわけてくれる人を殺したりはしてこなかった。話して済むならそれで済ませていた。しかし、必要とあらば遠慮なく殺していたし、それが当然とも思っていた。現世でいうところの十歳ほどの見た目は相手を油断させるのに十分だったけれど、そんな子供だからこそなのか、多くの人間は殺そうと近づいてくる。ここで血を流さずに生きていかれるとは思わないし、相手も自分を殺しにきているのだから、こちらも殺して奪うしかないだろうと思う。
 自分の最期もまた、これまで自分がしてきたように、何かを奪いにきた人間に殺されて血溜まりの中だろう。それは自分に似合っていると思う。現世で死んだときのことはよく覚えていないがソレも多分血溜まりの中だ。そしてここで自分は他人の血溜まりの中で生きている。他人の血に塗れて生きている。でもそれが何だというのだろう。ギンにとって生きることは血を流すことだ。そうやってまで生きていく意味も価値も理由も知らないけれど、これまで殺されていないのだから生きていくしかない。
 葉に覆われた大樹の太い枝に腰を落ち着け、ギンは一息ついた。上を見上げると、生い茂る葉の隙間から星空が見えた。この様子なら明日も晴れるだろう。晴れた日は食料を探すのによい日、雨の日は隠れ家で休む日。ただそれだけ。森の木々は隠れ場所であり食料庫。草原は在庫の少ない食料庫。花は食べても腹はふくれないが、蜜は甘い。ただそれだけ。他人は食料を命を奪いに来る者。自分が何かを奪う者。ただそれだけ。
 ただそれだけのものばかりで世界はできている。ギンの細い目がまた細くなり、ギンは何かを振り払うように頭を振った。



 乱菊がこの場所についてすぐに行ったことは、とにかく逃げて物陰に隠れることだった。自分が現世でどう死んだのかもよく覚えておらず、なぜここに連れてこられたのかも、自分のいる場所もよく分からないまま、ぎらぎらとした眼をして近づいてくる人間に危険を感じて走って逃げた。

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01月03日(月)
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