ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■01 前兆
 二人に背を叩かれて、白哉は無表情のまま歩き始める。空を見上げると星が瞬き始めていた。そして花火師となった幼なじみの妹と、死神をしているその兄が一族総出で花火を打ち上げてくれると言っていたことを思いだし、白哉は店から空が見えるかどうかを尋ねようと口を開け、そして閉じた。
 目の前の二人は同じ波長の光の中で話しているように、一瞬だけ見えた。
 白哉は幼なじみの兄妹の姿も思い出した。彼らもまた柔らかい光の中にいるように白哉は思う。白哉はわずかに顔をしかめた。白哉は自分に与えられている愛情を疑ったことはない。しかし成長した白哉は、幼い頃から自分の中に吹いていた木枯らしの名を知っていた。
 何故だろうと思う。男女の愛を求めているわけではない。家族の愛に飢えているわけではない。なのに何故、自分は感じるのだろうかと白哉は不思議でならなかった。
 ふと、目の前の青年が白哉を振り返った。そして顔を見て、へらりと優しく笑う。
「白哉サン、大丈夫ですよ」
「何がだ」
「いやだなあ、もう。ほら、今はアタシタチですけどね」
 白哉の肩を抱えるようにして青年が歩き出す。鬱陶しそうな顔をした白哉を見て、漆黒の幼なじみはまた可笑しそうに笑った。


 そして、その幼なじみ達も白哉の目の前から消えていった。
 まず最初に、兄妹の家が瀞霊廷から流魂街へと追いやられた。兄は死神をしていたから会えないということはなかったが、妹の方はそのまま流魂街で暮らすようになり、朽木家の者としてはなかなか流魂街へ向かうことは許されなかった。何より、追いやられた理由を誰も知らなかった。中央に掛け合おうとした白哉を兄の方は笑って止めた。そして、何も知ろうとするな、と一言だけ囁いた。
 次に、漆黒の幼なじみと青年が尸魂界から追放された。
 何も知らず、何も教えられていなかった白哉は、その出来事を知らされたときに眉一つ動かさなかった。そのまま職務をこなし、淡々と一日を過ごし、隊舎にある個室へと戻って初めてその顔を歪めた。もうすでに白哉は追放の理由を知ることのできる地位にはいたが、詳細を無闇に知ろうとはしなかった。ただ、自分に何も知らせなかった彼らの思いを理解して、一人静かに唇を噛んだ。


 白哉は、ひとりきりだった。
 父も母もすでに死に、朽木家の長として、一人広大な屋敷を守っていた。
 木枯らしはますます強く吹いた。その乾いた音が漏れないように白哉はただそれを抱えていた。
 そうして日々は更に流れた。


 ある日、南門の傍を通りかかったときだった。
「お願い致します。どうか中にお入れ下さいませ。お願い致します」
 細い、けれど通る声が聞こえて白哉は振り返った。その声は門の向こうから聞こえる。その響きは白哉の中に引っかかり、その響きを確かめたくて彼は向きを変え、門に向かって歩き出した。
「お願い致します。中に妹がいるやもしれないのでございます。妹には霊力がございましたから、死神になっているかもしれないのです。私はずっと妹を捜してここまでやって来たのでございます」
「そう言われてもなあ。規則でな、どうしても入れられんのだよ、お嬢さん」
「お願い致します……ならば、せめて、門番様。この姿に似た少女をご存じ在りませんか」
 近づくにつれ声ははっきりとし、その哀切な響きの声は白哉の耳に染み通った。何かを渇望した、擦り切れそうになるまで求めている声に白哉の内側に吹く風が呼応する。白哉は木枯らしがきりきりと吹き荒れるのを感じた。その吹き荒れた木枯らしの中には幽かに怖れも混じっていた。これまで自分にはなかったものが門の外にあるということを、白哉は感じていた。彼はそうっと門の外を覗いて、そして息を止めた。
 細い細い、吹き飛ばされてしまいそうな女性が土下座をしていた顔を上げた。
「この顔に似た少女をご存じ在りませんか」
 大きな眼は必死な光で輝いていた。頬は痩け、血管が透けそうな程の白い肌は薄汚れているのに、その強い思いが全身から溢れていた。乾いて切れた小さな唇が懸命に動き、門番へ願いを述べていた。
「妹は必ず、この姿に成長しているのでございます。門番様、見覚えはございませんでしょうか」

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11月01日(木)
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