ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■01 前兆
 それは決して甘やかしたものではなく、不必要に厳しいものではなかった。上流貴族としての意識、振る舞い、家を背負うということについて両親や周囲の者は、しんしんと白哉に浸透するように何かにつけて彼に話して聞かせた。それは長男として、唯一の跡継ぎとして産まれた白哉にとっては必要なことであったし、その教育こそが彼への愛情だと彼らは考えていた。
「白哉さん」
 体の弱い母は、午後の陽射しのさす部屋で白哉に言い聞かせる。
「しっかりと生きていかねばなりませんよ。私達が支えているのは私達だけではありません。付き従ってくれている者達の生活。これまでの家の歴史と家が支えてきた瀞霊廷の歴史。それらを守り支えていくことを忘れてはいけません」
「はい、母上」
 一間ほど離れた場所に正座した白哉はしっかりと母の目をみて頷く。その距離を詰めることは殆どなかった。家の長たるものは、誰かに甘えてはならないことを理解していたから、白哉は母の細い腰に抱きつくことはしなかった。
「白哉」
 年老いていた父は広い庭の中にある藤棚で白哉と並んで藤を見上げながら話す。
「そなたは霊力もあり、それも強いようだ。おそらく成長するにつれて死神になりうる強さになるだろう。朽木家の長としてだけではなく、死神として更にこの瀞霊廷の支えとなりなさい。それが貴族の役割であり、力を持つ者の役割だからな」
「はい、父上」
 白哉は懸命に父の顔を見上げるが、彼は屈むことをしなかったから白哉は父の表情が見えなかった。ただ横にあった大きな手のひらを握ろうかと考え、そして白哉はそれもせずに頭上の藤を眺めていた。
 父も母も、白哉を限りなく愛していた。それは独善的な盲目的なものではなく、ただ白哉のことを思い、朽木家で生きていく白哉のためを思った愛情だった。しかしその基盤から「朽木家」が抜けることはなかった。彼らは朽木家として生きること以外を知らなかったし、想定もしていなかった。
 白哉はその愛情を受けとめていた。この家に生まれた以上はそれが当然とも思っていたし、両親の愛情は本物だと判っていたからだった。
 ただ少しだけ、両親の前にいると自分の中に吹く木枯らしを感じずにはいられなかった。その手に触れたいと沸き上がるその思いを黙って抱え、白哉は父と母を見上げていた。彼らの微笑みはあまりに高いところにあったから、彼らが微笑んでいることを知ってはいたが白哉にはあまりよく見えなかった。


 そうして日々はゆるやかに過ぎていった。


 白哉は死神となった。彼の能力は秀でており、貴族だから特別扱いだという周囲の陰口を白哉はその実力で黙らせた。先に死神となっていた幼なじみ達も、影で彼を助けていた。それは判りやすいものではなく直接的なものでもなく、ただ白哉の表情には出さない傷を癒すものだった。
「おぬしは不器用のままに育ったのう」
 漆黒の幼なじみは少女から美しい女性へと変貌していたが、相変わらずの口調で白哉をからかい、しかししなやかな腕を伸ばして柔らかい手で頭を撫でた。
「そんなことはない」
「それが不器用と言うのだろう。まあそれもまた良しか」
 欄干に腰掛けていた漆黒の幼なじみは、遠くを見て笑うとひょいと降りた。白哉がそちらに目をやると、同じく幼なじみの、かつての少年が青年の姿をしてやって来ていた。彼は白い羽織を翻して白哉に並ぶ。
「十二番隊隊長、ご無沙汰している」
 白哉がそう挨拶すると、青年はへらりと笑う。
「いやですよう、白哉サン。そんな堅苦しい」
「兄は隊長であり、私は一介の死神なのだから当然のことだろう」
「もう席官でしょうが。おめでとうございます、白哉サン」
 幼なじみの青年が、ほぼ同じ高さになった白哉の頭を昔と同じように撫でる。その横で漆黒の幼なじみは可笑しそうに笑った。
「ほれ、お前が遅いから白哉がふて腐れておる。全く、儂も早めに仕事を切り上げてきたというのに」
「すみませんねえ。ちょっと研究が終わらなくて。ま、でももう終わりましたし、行きましょ。良い店なんですよ、これがまた」
「うむ。白哉、おぬしは遠慮せずにな。おぬしの昇進祝いなのだからな」

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11月01日(木)
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