ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■絶対的な響きをもって鐘の音は時を告げた 2-1.5
男達の居場所を確認して、ギンはさほど離れていない大木の枝に座り幹にもたれかかった。さすがに少し疲れて溜息をついたときに、ふと乱菊の姿が脳裏に浮かんだ。仄暗い中に山吹色が射し込んできて、ギンは戸惑った。そこを照らしたらだめだとギンは頭を振り、枝の上に立ち上がった。止まるとろくな事を考えない。ギンは枝から枝へ飛び移り、男達の中に飛び込んだ。
慌てふためく男を一人、深く踏み込みすぎて斬り付けた。殺すほどではない、けれど深い傷から鮮血が刃の軌跡を追って飛び散るのを見て、ギンは体が軽くなったように感じた。
どうして自分はこんなに苦労して殺さないようにしているのだろう。全てが止まった思考の中で、ギンは自問する。自分が殺す分には構わないのではないか。乱菊の目の前でなければ構わないのではないか。
どうせこいつらは虫なのだから。
そう、どうせこいつらは虫なのだから。
ギンはもう一歩深く踏み込んだ。体のひねりを利用した勢いで刀を振りきろうとした。
しかし。
手の勢いが削がれた。男が悲鳴を上げてギンから離れようとしていた。ギンは瞬時に距離を置く。男達を睨みつけながら、ギンはただ、自分の内側から発せられる声に圧倒されていた。
耳を塞ごうにも自分の奥で静かなのに小さいのに響き渡るその声。ギンを世界から遮断するそれは呪詛のような声が頭の中で呟かれる声がこれは誰の声誰の声これは誰の乱菊に不似合いや乱菊を汚す存在や泥 と 血にまみれた お前 傍におって いいんかいつか 乱菊 お前見捨てて いなくなる乱 菊いつか い なくなる そのいつ かが 遅けれ ば乱菊汚れ て この仄暗い 場所 まで堕ちてくるで 綺麗な 綺麗な
乱菊が
汚れて 血 塗れの 場所まで 堕ちてくるで
綺麗な世界が 消え失せるわ
綺麗 な 乱 菊が消え失 せるわ乱菊は
人殺 し の お前 を
血と 臓物の
臭いが 染みつ い た お前を
空っぽのお前 を 世界も
光も
空 も
花 も
何もかも ない
お前を ほら そしたら
そしたら
そしたら
そしたら
そうしたら
「そんなことになるのやったら」
ギンは自分の声で我に返った。男達がちりぢりに逃げ去っていくのが見えていたが、ギンは動けなかった。ギンは気づきそうになった。もう少しで気づいてしまう自分に気づいて、ギンの体が勝手に震えた。愕然とした。
自分は逃げたがっていた。
逃げたくて仕方なかった。
乱菊から? 何故?
こんなに欲しているのに?
ギンは走り出した。動かないと考えを進めてしまいそうで、怖くなった。無意識に乱菊の待つ住処とは反対方向にギンは駆けていく。しばらく走って急に、殺さないままで追い払った強盗達が気になりだした。かなり遠くに追い払ったとはいえ、戻ってしまったらどうなるのか。乱菊が出会ってしまったらどうなるのか。そう思って、背筋がぞっとした。頭の中が真っ白になった。ぞっとして真っ白のまま走り出し、ちりぢりに逃げた男達を数日かけて探しだした。
全員殺した。
浴びた血の生暖かさを肌寒いからちょうどいいとすら思いながら、ギンは最後の死体の傍に座り、住処を出てきた日数を数えてみた。最後の男を殺すまでギンには明確な意識というものがなかった。数えてみたら、もう十日が過ぎていた。これまでで最長記録だと思った瞬間、乱菊に会いたくなった。あの苦しさが怖いとすら感じていたのに、それ以上に、会いたくて仕方なかった。
乱菊の姿がうすぼんやりと現れる。
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03月11日(土)
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