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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ANORA アノーラ」


祝!オスカー作品・監督・脚本・主演女優・編集賞受賞!いやー、びっくりした。観たのはオスカーの発表前でした。底辺の野良母娘を、厳しくも暖かく見守った「フロリダ・プロジェクト」の、ショーン・ベイカー監督の作品。今も私の大好きな作品です。今回もストリッパーで底辺の若いヒロインを、エネルギッシュに描いた作品。そしてやっぱり眼差しは暖かで、今回も大好きな作品です。監督・脚本・製作、ショーン・ベイカー。

ストリップダンサーとして働くアニーことアノーラ(マイキー・マディソン)。ある日客として来た、ロシアの大富豪の御曹司イヴァン(マーク・エイデルシュティン)に気に入られ、一週間貸し切りの契約を結びます。意気投合した二人は、出会ったばかりなのに、勢いで結婚。しかしイヴァンの両親は激怒し、二人を別れさせるため、屈強なボディーガードのイゴール(ユーリー・ポリゾフ)たちを差し向けます。

オスカーの受賞スピーチで語っていましたが、監督は性産業で働く人々への人権を描くことがライフワークのようです。私がアニーを観た時、「フロリダ・プロジェクト」では子供だったムーニーが、成長してストリッパーになったように錯覚したのは、思い過ごしでは無かったようです。全く別の作品なのに、根底には、監督の彼女たちへの想いが込められている。

前半はストリッパ―稼業の様子と、イヴァンとその取り巻きとの乱痴気騒ぎに終始。そしてイヴァンとアニーとのセックスの様子。これでもかと描かれる自分の子供より若い子たちのバカ騒ぎに、もう胸焼けしそう(笑)。酒池肉林にクスリ、そしてネットゲーム。私は今どきの若い子の文化に、結構理解はある方ですが、それでも、もうちょっと文化的なアプローチはないのか?お前ら、バカだろう?的な思いが浮かびます。しかし、この前半は、この作品を理解するためにあったんだと、後半を観て思います。

二人は愛し合って結婚したのではありません。契約した一週間、お互い肌も合ったし好意も抱いたでしょう。でも愛ではない。二人を結んだのは打算です。イヴァンはアメリカ人の妻を得て、在留許可を延したい。アニーはイヴァンの財力を使って、底辺から抜け出したい。結婚にも様々な形があり、無軌道ですが、私は悪い事だとは思いません。

でも「娼婦」と結婚したと激怒する両親から、イヴァンの逃げ足の速い事。それも新妻は置いてけぼり。子守り役相手のアニーの大立ち回りが物凄い。ちょっとした獣です。「娼婦って言った?誰が娼婦だ!」から始まり、大暴れ。アニーはかすり傷なのに、子守り役たちは骨折迄して、手負いの熊です(笑)。ここ面白かったなぁ。痛快でした。

イヴァンは散々彼らを困らせていたのでしょう、陰でバカ息子、クソガキ呼ばわりする子守り役たち。バカップルに振り回されて、ちょっと可哀想な中、アニーをバカにしたり、セクハラする様子がないので、悪党には見えません。

ここからイヴァンを探すために、イヴァンの子守り役たちとアニーは手を組みます。敵の敵は味方って、図式だな。取り巻き立ちの所へ行けば、彼らも仕事は底辺。アニーが雇い主に、「ここは年金や社会保険の保証があるの?なら居るわよ」と捨て台詞を吐いてストリップバーを後にしますが、取り巻き立ちも立ち位置は同じ、浮き草のようのもの。刹那的な享楽だけではなく、イヴァンが自分を引き上げてくれると、密かな思いがあったかも。

でも財力は親の物で、イヴァンの物ではありません。そしてイヴァンは、親にして「お前は一族の面汚し」と言われるバカ息子。前半の狂乱のバカバカしさは、イヴァンの超の付く中身の無さを表していたのでしょう。それしか出来ないのです。アニーは、その事が未だ知らない。

アニーはイヴァンの恋人として、一週間の契約をして、次は入籍。入籍も夫婦になるという契約です。そこには両家の親も関係する。そうアニーは認識しているから、「あなたの一族の一員になれて、光栄です」と、イヴァンの母に礼節を尽くす。しかしガン無視どころか、無礼な暴言を吐くイヴァンの母。


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03月09日(日)
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