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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「シビル・ウォー アメリカ最後の日」

架空のアメリカの内戦を描いた作品。観る前は、アクション中心で、思想的な部分や人間ドラマは希薄な、エンタメに傾く作りだと予想していました。予想は大外れ。アメリカの闇や病巣などではなく、アメリカそのものが、深く真摯に描かれていたと思います。監督はイギリスのアレックス・ガーランド。
現在の大統領の政策に反発し、連邦政府から19の州が離脱したアメリカ。テキサスとカリフォルニアは西部同盟を結び、政府軍との間で内戦が勃発。各地で激しい紛争が起こっています。戦場カメラマンのリー(キルスティン・ダンスト)は、記者のジョエル(ワグネル・モウラ)、同じくベテラン記者のサミー(スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン)、駆け出しカメラマンのジェシー(ケイリ―・スピーニー)のジャーナリスト四人で、14か月一度もメディアの取材に応じていない大統領に、単独インタビューを臨みに、激しい戦火の中、ニューヨークからワシントンのホワイトハウスまで、車で向かいます。
少しだけ目にした感想に、内戦の理由が描かれていないと読みました。鑑賞前はその事を危惧していました。しかし分断が声高く叫ばれるようになって数年、今のアメリカを日本から観ているだけでも、内戦の数歩手前にいるように感じます。確かにいきなり内戦状態が描かれますが、映画が始まってしまえば、全く気になりませんでした。
先ず四人の構成に気付きがありました。リーはブロンドの白人女性ですが、ステロ的な生き方をせず、女性ではごく少数であろう、戦場カメラマンです。血気盛んなジョエルは、見るからにラテン系。円熟した聡明さを漂わせるサミーは、老いた黒人男性。そして志は高いが、右と左が解るくらいの小娘であるジェシー。彼らは多分、皆アメリカで生まれ育った、アメリカ国籍を持つアメリカ人。しかし今まで、又は今後、様々な差別を受けて来たであろう人たちです。言い換えれば、とてもアメリカらしい。のちの赤いサングラスの男(ジェシー・プレモンス)の言葉に繋がると思いました。
数々の戦場に立ち合い、精神的にも肉体的にも限界が来ているリー。「大統領のインタビューをスクープ出来ると思うと、勃起する」と答えるジョエルとは対照的です。しかし彼らは同じジャーナリスト。自分の感想や感情を抜きにして、真実を民衆に伝える事を共有しています。「今まで各国の戦場を撮ってきたのは、アメリカに内戦が起こらないようにしたかったから」と吐露するリー。この内戦で無力感いっぱいになっている様子が、とても辛い。
リーとジェシーの両親は、この内戦に無関心。自分の所に火の粉が降りかからねば、無かった事なのでしょう。しかし二人は、その事を良しとしなかった。激しい戦闘の中、ある一角だけ、魔法のように被害を受けていない場所に出くわす四人。洋品店の店員は、「無関心なのが一番よ」と、にこやかに応じます。そうだろうか?屋上には何があったか?あれは見守っているのではなく、見張られているのです。無関心=思考停止なので、その事が理解出来ないのでしょう。自分に被害がないとて、戦争に関して無関心でいるのは罪だと、私は取りました。
至近距離での銃撃戦がたくさん出てきて、緊迫感満点です。いつ命を落としてもおかしくないのです。こちらから観ると、どちらが敵で味方か解らない。それは兵士もそうなのだと解かるセリフが出てくるのが、とても恐ろしい。
先述した赤いサングラスの男が、リー、ジョエル、ジェシーに出身地を尋ねます。「実にアメリカらしい」と冷酷に微笑んだ後、「香港」と答えた記者に何が起こったか?このシーンは観て何日も経ったのに、脳裏に焼き付き、とにかく恐ろしい。本当は出身地など、どうでも良いのです。銃の引き金を引く理由を後付けしたいだけなのだと、思いました。兵士にとってはそれが戦争、そう感じました。
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10月13日(日)
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